接近するフランスと日本2015/02/24

 2月10日前後に、東京外大のときの最後の学生がパリ8大学に博士論文を提出し、その審査会に参加するため一週間ばかりフランスに行った。シャルリ・エブド襲撃事件の余波のなかでいろいろ考えさせられたが、これについてはつい最近出た『現代思想』の増刊号が充実した情報・議論を集めている。

 未整理がだ、最近のフランスと日本との接近について、その要点のいくつかを確認のために挙げておこう。
 
 フランスが注目されるのは、もちろん、シャルリ・エブド事件から日本人人質事件と、一挙にいわゆるイスラーム過激派、とりわけ「イスラーム国」絡みでのつながりができてしまったことがあるが、それだけでなく、この間、日本がフランスに急速に接近しているという事情があるからだ。その接近は福島第一の原発事故処理で始まり、その後の再稼働と原発維持政策をめぐっての協力だけでなく、日本政府が解禁した武器輸出と攻撃兵器の導入方針によって、日仏の防衛関係者と軍需産業との間て水面下の接近が進んでいる。全般的姿勢としてみれば、それは両国の「テロとの戦争」への前のめり、それとイスラエルとの関係に現れている。

 「対アルカイダ」ではフランスは慎重な面もあったが、去年の「イスラーム国」台頭以後、フランスは「テロとの戦争」に積極的になった。それは、イスラーム国がフランスの伝統的な「勢力圏」であるシリアに深く関わっているということもあるが、「アラブの春」以来のEUのアラブ・イスラーム地域への軍事介入(とくにフランスのリビア空爆)によって、その地域のその後の混乱がEU域内に地続きで浸透するようになったからだ。

 その背後には、「テロとの戦争」という「最長の戦争」に倦み疲れた観のあるアメリカの後退があり(オバマは兵を引きたい)、イスラエルの極右化とそれが煽る「反ユダヤ主義」の影があり、フランスや日本が「応分の働き」を求められる(世界秩序維持のために応分の負担をする)という圧力があるからだ。

 そこにシリアとウクライナはどう絡んでいるか? オバマ大統領は任期二年になって選挙を気にしなくてよくなり、去年末から外交関係の整理に入っている。まずは冷戦期の遺産といってよいキューバとの関係改善の準備に入り、またブッシュ政権以来のCIAによる拷問の実態を公表、さらに今年になって、去年初めのウクライナ政変でのCIAの介入を明かにした。これは9・11以後のネオコン=ネオリベ路線の「テロとの戦争」による世界統治が引き起こした新たな緊張関係(そこにはロシアの封じ込めも含まれる)の緩和を目指すものと見てもよいだろう。

 シリアとウクライナはもう国の一体性を保つのは不可能なほど分裂・崩壊している。ということは、第二次大戦で決まった国境線はもはや根拠を失って揺らいでいるということだ。それは紛争地自体から生じたことではない。ウクライナはアメリカ系資本とCIA(経済と軍事)が欲を出してここに危機を作り出し(「民主化と自由経済」の御旗)、ロシアの強硬化を誘って頓挫した結果だ。またシリアは、アメリカを焚き付けながらフランスがアサド政権打倒に深く関与したことから内戦状態になった。そこにすでに崩壊していたイラクの状況も結びついて、その結果、西洋的な国家ゲームからすり抜ける「イスラーム国」が登場してしまった。けれども、「ウェストファリア体制はもう古い」と宣言して国家間秩序を壊す「テロとの戦争」を始めたのは9・11後のアメリカであり、今日の各所での「国家崩壊」はその帰結でもあるのだ。

 オバマはこの状況を緩和しようとしているが、日本とフランスは今になって「ネオコン=ネオリベ路線」を代替して、周回遅れの「金と力による世界統治」に乗り出そうとしているようにみえる。

 ギリシアの新政権が最初のEUとの交渉に「挫折」し、当面EUの支援と引き換えの緊縮策を受け入れる姿勢に転じたが、フランスの論調を見ていると、貧乏人が貧乏になる構造の上に胡坐をかいて、貧乏人に生活の仕方を教える金持ちのような姿勢である。

 国際関係としてみればそういうことだが、フランス社会の崩壊も根深い。いま国内に100の荒廃団地があるという。そこはほとんどフランス国家の外で、法治ではなく放置されている。この30年間でそういう地区を作ってしまった。その統合ができないかぎり、フランスはほとんどアパルトヘイト国家になるだろう。

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