中村医師、アフガンの天に舞う2019/12/15

12月4日、ジャララバードで現場視察に向かう中村哲さん一行が襲撃殺害されというニュースが届いた。縁あってTBSニュース23のスタッフから声がかかり、わたしでよければということでコメントを収録した。アメリカが始めた「テロとの戦争」で帰国を余儀なくされた2001年冬に、中村さんを東京外大にお招きして――同僚の中山智香子さんがこのときすでにペシャワール会のメンバーだった――アフガニスタンについてお話しいただいたのが、奇しくも12月4日だった。声をかけてくれたTBSフタッフはそのとき学生として講演を聴いていたのだ。今回、「しんぶん赤旗」が追悼記事を書く機会を与えてくれた。それが15日朝刊に掲載されたので、わずかに加筆してここに公表することにした。
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 ペシャワール会の中村哲医師が5人の運転手警備員とともに銃撃を受けて死亡したというニュースが、不意の衝撃波のように届いた。波は日本中を揺さぶったが、その衝撃の大きさが逆に、こんなにも多くの人びとが中村さんを敬愛していたということをあらためて知らしめた。

 中村さんはアフガニスタンで医療活動をしながら、旱魃と戦争のもたらす荒廃の中で、治療よりまず生きるための水が必要だと井戸を掘り、ついには灌漑用水路を作ることになった。この地では一九七九年にソ連が侵攻して内戦状態になり、その後は部族抗争が続いて、イスラーム原理主義のタリバンがほぼ全土を掌握したところで今度は米欧が空爆、タリバン政権を倒してアメリカの庇護下の新政権ができた。しかし、「テロとの戦争」を掲げて現地住民を顧みないアメリカの軍事政策は民衆の間に根深い反発を買い、タリバンは復活、その他の反米イスラーム勢力が政府と対立する「戦争」状態が続いてきた。

 その中で中村さんは、現地をまったく知らずに「テロとの戦争」と称して空爆を繰り返す「文明国」を批判し、この地を住めなくして人びとを難民キャンプに追いやり、生きるために麻薬栽培に手を染めたり、雇われて銃をもったりさせるのではなく、人びとが生きる場をもてる最低限の条件を整えなければならないと考えた。干上がって荒れた土地を灌漑できれば耕地が生れ、人びとはそこで作物を育て、収穫して生きてゆくことができる。それを通して人びとが生きる喜びを感じ、自分で成し遂げるという満足感も得られれば、人びとは武器を持ったり殺し合ったりしようとはしないだろうと。

 いつ終わるとも知れぬ米欧の「制圧作戦」が続き、それに対する現地のタリバンや他の反米勢力との応酬が続く中、人びとが自力で生きられる条件を作り出すことだけをめざし、「武器をもたない」ことを盾とし鎧として現地に止まり続け、何十万の人びとが戦争をせずに生きてゆける地帯を、彼ら自身の力で作り出させる。中村医師はみずから重機器のハンドルを取りながら、その事業のタクトを振り続けたのである。

 彼こそは「平和の戦士」である。ただしけっして武器をとらない。説得し、分からせ、互いを殺し破壊し合うのではなく、ともに生きる基盤を作るための作業に向かわせる。その闘いは、戦争と、戦争を解決手段とするあらゆる趨勢に対する闘いである。

 文字どおり命がけの闘いだ。二〇○八年にペシャワール会はひとりの犠牲者を出した。武装集団に三一歳の伊藤和也さんが殺害された。しかし中村医師は、ペシャワール会は撤退しないと宣言した。死んでもこの作業はやり抜くというのだ。ただし、外国人として狙われやすい日本人スタッフは帰国させ、自分だけが残って現地スタッフと共に事業を続けた。この時点で、中村さんはこの「戦争に抗する闘い」、人びとに自力で生きる地域を切り開くための闘いで、自分は生きて帰らないと心に決めたのだと思う。

 二〇〇一年冬、米軍のアフガニスタン空爆が始まって一時帰国していた中村さんは国会に参考人として呼ばれた。そのとき自衛隊の派遣について問われて、言下に「百害あって一利なし」と答えた。すると自民党席から「売国奴」というヤジが飛んだ。自衛隊の派兵を拒否する中村さんは、日本政府周辺からはこのような扱いを受けてきた。だが、遺体を日本に送り返すにあたって、ガニ大統領はみずから先頭で棺を担いで最大限の敬意を表したのである。世界中から称賛されるその功績は、戦争に抗って人びとを生きさせるための努力にこそあった。

 その意味では、誰が中村さんを殺したのかは大した問題ではない。この極端に格差のある「文明化した世界」のなかで、戦争をしたがる、戦争にしたがるあらゆる勢力が、中村さんを地上から押し退けたのである。中村さんは銃弾に散ったが、その肖像はいまある航空会社の旅客機の尾翼に描かれてアフガンの天に高く舞っている。

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