近々未来小説「無観客オリンピックとその翌日」2020/03/08

ホッブス『リヴァイアサン』口絵――Etienne de la Boetie, "La servitude volontaire", Ed. Payot の表紙
 時は令和2年(2020年)3月上旬の日本。「ここが山場の二週間」も過ぎた。7月のオリンピックはどうするのか。今回は「アンダーコントロール」と大見えを切り、IOC委員も買収して東京にもってきて、今までさんざん金をバラマキ私腹も肥し、世の中乗りに乗せてきたこともあり、止めるとは誰にも決められない。せっかく始めたものは崖に堕ちるまでやり抜く。どうせ堕ちるのは国民だ。それがニッポン大本営のお家芸、オリンピックの精神だ。
 
 「桜吹雪」を散らしてくれると思っていたコロナウイルス禍、足元に火がつき始めたので大見え切って「学校閉鎖」、しかし打つ手打つ手は的に当たらず、社会生活・経済生活直撃、国中大混乱で不平噴出。無理やり株価を吊り上げてきた日銀も、打つ玉切れで青息吐息。もうこうなったら「非常事態宣言」で全権掌握だ…、のサスペンス。
 
 だが大丈夫、最近はやりの「無観客開催」という手がある。先日の東京マラソンは「大成功」、選手も観衆も出場できなかった市民ランナーも、誰も文句を言わなかった。テレビ視聴率も上々。代表決まってみんな満足。大相撲三月場所でもテストできる。森喜朗ら(JOCや政府・東京都)は渋い顔。皆で宴会、踊れる場所がほしい。とはいえコロナ禍、しかし「中止」の選択肢はない。7兆超と皮算用の「経済効果」のニンジンは落とせない。多少減ってもこれをなしにはできないし、マスク外したメンツもある。やるっきゃないのインパール作戦。
 
 折から、「第四次産業革命」が謳われている。これからの世界は人間じゃない、メカだ。面倒な観客なんていらないヴァーチャル・メディア五輪はトレンドかも。スーパーマリオだって、全面映像パフォーマンスのほうがかっこいい。3D映像で世界に配信。この機会に一気に5G化して、中国も出し抜く。客はみんな、どこでもいつでも、ゴーグルかぶってリアル映像で見る。『華氏四五一度』みたいじゃん。これだ、まったく新しい東京五輪、未来のオリンピックの先駆けかもね。
 
 実を言うと、ほんとのモデルはヒップ・ホップの無観客ライブだ。空っぽの巨大アリーナでヴァーチャル観衆相手に闇の中の電脳スペクタクル。醒めた熱狂もヴァーチャル。しかしクラウド・ファンディングで元は取れた。これからテロやウイルスの脅威で、生はますます危なくなる。電脳ヴァーチャルがトレンド、ダボス会議もそう言うよ。

 とはいえ、仲間がみんな頭古いのは隠せない。戦争と言っても竹槍、ハイテクと言ってもゼロ戦の世界。ハイテク担当大臣はパソコンもできなかった。イーロン・マスクは宇宙脱出を事業にして、つい先日もロケット飛ばしたのに。そいつらと組めば、漢字読めなくても首相は務まる(いや、使われるのはこっちか)。厚顔無恥なら大丈夫。それが脅して締め上げれば、みんな競ってソーリ大臣守ってくれる。国営ニュースはそのためにある。

ただ、アベの大本営はいつも内向き。つまり世界の視点に立つことができず、自分たちが日本という繭の中にいると錯覚している。あるいはそうしたい。世界から国内を遮断し、メディア抑えて「ニッポンすごい」の空気を吹き込んでおけば、国民はみんな思うようになると考えている。そのためのアベ応援団(日本会議、神社本庁、その他ネトウヨ)。「ニッポンすごい」の内向き国家、返す刀で、周辺諸国に向けてのヘイト推奨、その真ん中でアベが輝く。「令和」すごいね、ニッポンだけの「世」を刻む元号。

とはいえそこに、国境を透過するコロナウイルス。共通の関心事だから、世界は日本の一挙手一投足を見ている。何で日本は一月経っても感染者300人? クルーズ船では700人も出したのに、とアベの日本に厳しい目。そして4日のニューヨークタイムズの記事、「世界の脱出王」(縛るお縄がないことにして、いつも追及を逃れる)。アベは裸の王様と言われてきたが、繭の中では気分はショーグン、「わたしは総理大臣だから」。外から見ないと、裸だと指摘できない。だからここでも日本改造には黒船頼りか。そうではない、今はグローバル世界なのだ。裸踊りが通用するのは、繭の中でも周りで諂う取り巻き連中だけ。ただし、その「周り」が「自発的隷従」の鎖を固め、権力の「無罪」を作っている。そしてこの鎖は「ヘイト排外主義」の針金で織りあげてある(リヴァイアサンの口絵を飾ったあの王の肖像を見よ)。

アベの毒が繭の中にとどまるうちは世界も醒めてみているが(アホなニッポンだ!と)、コロナウイルスもオリンピックも世界のイッシュー。だから「無観客開催」ができるかどうかは、放映権料で胴元IОCを動かすアメリカ・メディアがどう出るかで決まる。秋にはできない。一年後も五輪史上例がない。

アベの「緊急事態法」はコロナ制圧のためではなく、繭の日本を守るため。そしてインパール作戦敢行のため。さらに途中で作戦が崩れたとき、つまりオリンピックが召し上げられてできなくなったとき、人心失意・経済破綻をはじめ、国内の政治・経済・社会にわたる混乱を抑えて、アベの大本営が責任をかわす時のため(だからスガも「ただちに影響はない」、とエダノ風に説明した)。そのときには、コロナ患者数が膨大になっているが、国会は閉鎖されるだろう。

しかしそれが、「アベの日本」の断末魔。大本営は逃げ出し、繭は崩れ、国民はアベノミクス(企業のために民を搾り取って数値を上げるフェイク経済)と人心荒廃で焼け野原の日本に投げ出される。その「敗戦後」の日本にアメリカ占領軍はおらず、我が物顔で歩くのがアベを支えアベに養われたレイシスト集団だとしたら、「敗戦」の元凶として「反日狩り」が猖獗する。いずれにしても、それが「オリンピックのレガシー」だ。

イヤーなシナリオだが、いまアベ一党(アベを支える「自発的隷従」体制)を崩さなかったら、そしてアベを放逐しなかったら、かなりリアルな近々未来だ。中国SF『三体』より、冷たいロマンのかけらもないだけむくつけきリアル…。

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読者(池田さん)――
先生の地獄シナリオは、避けたいけれど本当にそうなりそう。
これを覆したいとは切に願いますが、現実的に、どうすれば安倍晋三を辞任に追い込めるか、どんな手段があるかアイデアがあればぜひあげてください。

とにかくアベに退場してもらうしかないでしょう。この人はほんとに異常な人で(漢字も読めないからアベとルビで書いていますが)、自分の権力を無制約にすることしか考えていません(「私は正しい、だって私が総理大臣なのだから」)。そして周囲を脅して「自発的隷従」体制を敷いています。議論なんか受けつけない。だって「私が総理大臣なのだから」。しかし、これを取り除かなければ日本の政治も社会政策も機能しません。これがいなくなれば、コロナに対しては誰がやってもそれなりの対応にはなるでしょう。ともかく、国民・メディア監視の下、実務官僚や現場の医師たちに忖度・拘束なしに働いてもらうことです。アベがいるかぎり、あらゆる危機や自分の無能が引き起こす混乱を、すべて「指導力発揮」と権力強化の機会にしようとして、ますます混迷を引き起こします。何でもアベのせいにする、と言われそうですが、そのぐらい異様な首相だということです。試しに、アベを隔離してみたらどうでしょう。それだけで状況はガラリと変わります。民主党政権の原発事故対応程度にはなるでしょう。

あっ、ご質問に答えていませんね。安部を辞任に追い込めるのは、公明党と自民党内部しかいないでしょう。議論はいっさい受けつけず、野党の攻撃はみんな素通りして数で押し流すのがこれまでですから(脱出王!)。アベではいくら何でも自民党ももたない、と自民内部に気づかせねばなりません。だからメディアによる総攻撃が必要ですが(支持率致命的に落とす救国大作戦!)、そのときにフジ・産経だけでなく、「官邸記者クラブ」がテッペキの防御を固めていますから、まず、ここを崩すのがいちばん効果的でしょう。あとはダーッと崩れます。官邸記者クラブはそれぐらい罪深い。