「アメリカ黙示録」時代の「思想地図」2020/12/27

 ――イギリスの民間調査機関が、コロナ・ショック後の予測として、2028年には中国がGDPでアメリカを凌駕するという調査結果を発表した。5年前の調査では、その時期は2033年だった。(NHKウェブ・ニュース)

 たぶんこれ、実はショッキングなニュース(「アメリカ」は発狂するかも)。トランプの中国強硬策が選挙運動に使われたのも、バイデン政権がその方針を踏襲するらしいのも、中国が経済的に米国を凌駕することに「アメリカ」は耐えられないから。

 戦争はやってみないと分からない(と思われている)が、経済は自分たちの作った指標で数値が出てしまう。世界に冠たる「アメリカ」が、アジアの蒙昧なチャイナの腐れ年寄りが若返りを狙って歪な共産主義で復活して、とうとう「文明(=西洋)の頂点」アメリカを凌駕する!これを「アメリカ」は許せない。

 だから最近の中国叩き・中国敵視(しかし、90年代のアメリカIT企業転換にも、その後のリーマンショックから立ち直るためにも、中国の「成長」があったからこそアメリカ経済は進展してきたのに、それが許せないというのはいかにも理不尽な独善だと言わざるをえない)。いわゆる「西側世界」はそれに乗り、いっしょになって制裁姿勢。

 中国が軍事大国化するのは、この百年ずっと西洋諸国に食い物にされ、復興するにもつねに封じ込められて、その上、台湾を使って喉元にミサイル突きつけられ、東シナ(!)海も米第七艦隊で我が物顔の圧力をかけられてきたから当然のこと。習近平の独裁志向に国内向けの偏りが強いとしても、それが可能になる(いわゆる民主化が進まない)のは、米枢軸の西側圧力が攻撃的なため(中国人なら、中国が外圧で圧迫・解体されるのを望まないのは、この百年を歴史を知っていればこそあたりまえ)。

 日本のいわゆる識者・解説者等は、骨の髄まで「アメリカ」に染まっているので、西洋による世界化のプロセスも、アジアのこの百年の歴史も一顧だにしない。現在の世界構成(歴史なき地政学)を天与のものと思い込んでいる。

 西側世界が追従する「アメリカ」の独善は、西洋白人文明の卓越という「近代」普遍主義から来ている。だが「アメリカ」は異民族抹消の空白の上に築かれた「自由」の人工世界。その成立には、異物のラジカルな蔑視と略奪と他者抹消を当然の「権利」とする、根本的倒錯がある。その倒錯を「啓蒙」のネオンの光で粉飾し、世界を魅了したのが二十世紀に世界の鑑(自由と民主主義!)となった「アメリカ」である。

 その「アメリカ」が虚飾を維持できなくなる。その時が近いという「発表」だ。「終りの日が近い」、アメリカにとって今は「黙示録」的時代なのである。だからこそ「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」のトランプが大統領になり、そのフェイクがあからさまになった今、「アメリカの精神」は完全にカルト化して「トランプ・アゲイン」のネット・メディア地下水脈に広がっている。

 その上澄みできらめくのが「暗黒啓蒙」の思想(ニック・ランド)、筋金入りの西洋文明至上主義であり(ポピュラーなレヴェルではあらゆる類の「ヘイト」現象として発現)、その上にヴァーチャル・テクノロジーの天蓋をかけて世界を引っ張っりつつ、みずからは「世界」からの「エグジット(脱出)」を試みる、シリコンバレーの「自由主義者」たちの使い走りたる「加速主義」であり(マルクス・ドゥルージアン)、さらに涼しい顔で世界のデジタルIT化を加速して「公私」を混淆させ、虚構の富を掌中に収めて世界の「生きたアイコン(偶像)」となっているのが、IT企業長者たちである。彼らは「思想」(人間が考えること)を解消したため、名前がない。だがそれにみごとに名付けた者もいる、「シリコンバレーの解決主義」と。

 これが現在の「アメリカ終末論」の「思想地図」である。

*「アメリカ」に括弧を付けたのは、「アメリカ」は国の名前ではないからだ。それは「新しい西洋」として作られた「制度的空間」の名前である。『アメリカ、異形の制度空間』(講談社メチエ)参照。

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