「アベノミ承認!」のからくり――選挙という回路2014/12/15

 総選挙が終わった。大方の予想通り、自民・公明は圧勝、これでアベノミクスも集団的自衛権も支持を得たことになった。投票率は約52パーセント、低かった前回よりも8ボイント近く落ち込み、「戦後70年」を前に最低を更新した。

 日本の選挙の構造はこれでまた明らかになった。投票率が下がれば自民・公明が「率」としては得票を伸ばして議席を得、投票率が上がれば逆になる。つまり選挙の争点や状況に関わらず、なんでも自民・公明に投票する安定基盤が「岩盤」のように存在し、投票率が上がれば、上がる分の多くは自公以外に流れるということだ(それが「浮動票」と呼ばれたりする)。政権交代が起きた5年前の投票率は69パーセントだった。
 
 自民党の基盤はいまでは「親方日の丸」時代の会社等の動員ではなく、町内会や老人会といった神社本庁に連なるような民間組織が大きい。もちろん既得権益層を代表する経団連や官財界の諸組織もあるが(5年前、民主党はこの部分の切り崩しに成功した)。公明党はいうまでもなく創価学会だ。

 今回は選挙に行かない人が多かった分、自民や公明が圧倒的に有利になった。行くかもしれなかったあと20パーセントばかりの人たちが投票に行かなかったのは、端的に、一票を入れたい政党(野党)がなかったということだろう。それは明らかだ。

 民主党は3・11の後、消費税や脱原発やTPPをめぐって瓦解したうえ、前回選挙で淘汰され、最近は野党とは言っても自民よりいかがわしい右派やポピュリスト政党もあって、まったく拡散していた(次世代、維新、みんなetc.)。安倍自民党は今回、その状況を突いて奇襲をかけたかたちだ、だから短期かけ込みで、選挙を盛り上げさせない(ニュースを牽制するなど)だけでよかった。

 それが功を奏して、20議席減ぐらいは覚悟していただろう自民もほぼ現状維持。これで安倍政権は、大手を振ってアベノミ政策と実質改憲に向かう基盤を得たことになる。

 ついでに言っておけば、自民党が大勝ちすれば公明党はもはや自民党にとっては不要になる。公明の選挙協力がなければ、自民候補の半数は当選が危ういとすれば、今回、安倍自民に勝たせた公明党は、ズルズルと墓穴を掘る結果を選んだと言える。これも、連立見直しの余裕を与えなかった安倍自民の作戦勝ちではある。

 選挙が民主主義の回路だというなら、この回路がいまどうなっているのか、よく見ておかなければならない。選挙という回路は理想的にはできていない。選挙制度の問題があり(日本はとくに金がかかりすぎ、小選挙区etc.)、また有権者の意識の問題もある。そして結果を規定するのは、政策や理念の選択であるよりも、むしろこの構造の戦略的な活用なのだ。だが、それを知る為政者の方は、この戦略的成功を政策や理念の正当化のために用いる。その結果、アベノミ政策や安保政策が支持されたということになる。たしかに、安倍政権は「アベノミクスの是非を問う」として解散を打ったのだ。
 
 総括はたぶんそれぐらいでよいだろう。安倍は「勝った」と思うかもしれないが、要するに選挙をやる前と状況は基本的に変わらない。去年の秘密保護法強行採決の頃からの状況は同じだということだ。この先、アベノミの破綻も見えてくる。それも変わらない。解散総選挙には「理がない」と言われたが、無理にやったこの選挙には「実」もなかったのかもしれない。それは年明けからのウンドー如何にかかっている。

 ただ、沖縄だけは県知事選に続いて自民が全敗することになった。仲井真の「転び」と石破「琉球処分官」の脅しに屈して変節した沖縄の自民党議員は誰一人選挙区で勝てなかった(にもかかわらず比例復活したが)。沖縄では「復帰」以来持ち込まれた本土の選挙回路の構造が、この間の知事選で完全に崩壊し、選挙が文字どおり「民意を問う」ものになった。長い試練が沖縄の民主主義を鍛え上げたのだ。

 それでもこの先、日本政府はアメリカのジャパン・ハンドラーたちに後押しされて辺野古新基地を進めるつもりだろうが、これは未経験の県(県民)と国との全面対決になる。帰趨の見通せないこの件については、12月20日および1月12日に予定されている連続講演「沖縄の地鳴りを聞く」(於:法政大学)の第二回、第三回講演の折に。