雑誌対談3つ2015/02/17

 この間、またブログの更新ができませんでしたが、サボったりスネたりしているわけではありません。日本の転機ともなるだろう年の初めの慌ただしさのなかで行った対談が――実際には年末から――いくつか発表されたのでご紹介させていただきます。

 
■現代思想3月臨時増刊「宇沢弘文、人間のための経済」
 宮本憲一との対談「公害の時代を生きて」

 去年11月に亡くなった宇沢さんの特集号で、環境経済学の泰斗宮本憲一さんと対談する機会をえた。実はわたしは宇沢さんと直にお会いしたのは遅く、2009年に民主党政権下で沖縄の普天間基地の「県外移設」が初めて論じられながら、その方針そのものが強烈なバッシングにあって後退しかけていた頃、この状況を座視できないとして知識人・研究者の「声明」をまとめようとしたときのことだった。宇沢さんはそのとき、沖縄の基地問題に道筋をつけることを最後の仕事にしようという意気込みだった。

 また、その会の座長として声明をまとめたのが宮本憲一さんだった。『恐るべき公害』(岩波新書、1964年)で「公害」の意識を日本に広めた宮本さんは、沖縄にも関わりが深く、弟子筋の川瀬光義さんと『沖縄論――平和・環境・自治の島へ』(岩波書店、2000年)という本をまとめている。わたしはそれを通して初めて宮本さんの環境経済学と沖縄との深い結びつきを知ることになった。宮本さんは地方自治に関しても著作だけでなく実質的なお仕事もされているが、その「自治」というのが単なる地方行政のことではなく、まさに経済を経由する地域の「自立」の問題であることを早くから説いていた。

 今回の対談では、都留重人さんや宇沢さんの生きた時代のコンテクストを、宮本さんの立場から語ってもらうことで、戦後の日本社会への経済学の介入に立体的な見透しつけるよう努めた。ほとんどは宮本さんの独壇場だが、さまざまなエピソードも交えながらじつに理路整然と経済・環境・自治について語っていただいた。

 
■世界3月号 「この道しかないはずはない!」中野晃一との対談。

 安倍政権下での選挙と政策について、立憲デモクラシーの会で活躍する上智大学の中野晃一さんとの対談。暮れの選挙でまた明らかになった「政治のネオリベ化」や、経済的なネオリベラリズムと日本の「国家保守主義」との組み合わせによる日本社会の病理の分析、そして欧米における「単一思考」を日本に持ち込んだ「この道しかない」のキャッチフレーズによるオルタナティヴの排除等、日本の政治の現状を、主としてヨーロッパの歴史的状況を参照しながら議論した。わたしは大したことは言えなかったが、気鋭の研究者中野さんからかなり見透しのよい分析を引き出しせたことで任は果たせたと思う。

 
■現代思想3月臨時増刊号「シャルリ・エブド襲撃/イスラム国人質事件の衝撃」

 2月下旬刊行予定のこの緊急増刊号で、現中東学会会長(千葉大教授)の栗田禎子さんと対談した。わたしが主としてシャルリ・エブド事件について、栗田さんは中東情勢とイスラーム国について発言し、双方の見解をすり合わせたが、これはかなり密度の濃い対談になったと思うのでぜひ読んでいただきたい。約20ページある。

 「私はシャルリー」を標語に街頭に出た370万のフランス人について、少し希望的な方に傾きすぎたような気もするが(多様性共存への要請だと)、フランス社会の亀裂や分断は深く、そこにしか出口はないということだ。それはEUの中心国では多かれ少なかれ共通しているし、日本にもパラレルな状況がある。

 移民問題のつけとネオリベ政策による社会解体、それに加えてヨーロッパではいつも背後でイスラエル問題がからんでいる。日本にはそれはないはずだったが、安倍首相は好き好んでこのファクターをもちこんでしまった。
 
 2月10日前後に、外大のときの最後の学生の博士論文審査に参加するため一週間ばかりフランスに行った。事件の余波のなかでいろいろ考えさせられたが、それについてはまた別の機会に。