ベネズエラ情勢に関する朝日新聞の社説について2019/06/18

 朝日新聞が15日、ベネズエラ情勢に関してとんでもない社説を発表したようだ(わたしは訳あって朝日を読んでいないので、人から聞いて今日知った)。

 「人道危機を覆い隠すな」と題して、「国民の苦境を顧みないマドゥロ政権の責任は重大だ。即座に国連などに協力して実態調査をし、緊急支援を行き渡らせるべきである。」と主張し、「国家が国民を守る責任を果たさない場合は、国際社会がその義務を負う」とした「保護する責任」という「画期的原則」にまで言及している。

 この社説はその週に掲載されたアメリカFOXTVばりのルポ記事を前提にしているようだ。これはすでに15年来、なんとかベネズエラを潰そうとするアメリカの工作キャンペーンとまったく路線を同じくしている。そして「人道危機」を救うという名目で「国際社会」(つまりはアメリカ)の軍事介入容認を事実上誘導するような主張になっている。

 ベネズエラは「国民の苦境」を隠してなどいないし、たしかに国連の担当官も「人道危機」であることを否定していない。だがその報告は、マドゥロ政権が引き起こしたというより、アメリカの「経済制裁」が原因だと言っているのだ。主要輸出品の石油の精製もできなくなっている。そのアメリカが「人道危機」を理由に軍事介入をちらつかせているのだから、マドゥロ政権は戦車といっしょに入ってくる「支援」を拒否するのだ。アメリカは不安定化のためにろくでもない人物に「暫定大統領」を名乗らせ、軍の分裂を画策したが、そのあまりのひどさに誰もついてこない。だからクーデターもうまくゆかない。蜂起が弾圧で抑えられたのではなく、ベネズエラの軍や民兵は、ベネズエラの国と体制を守る意識が高いのだ。
(いま詳しく論じる暇はないが、とりあえず2月に共同で発表した声明サイトと、在日ベネズエラ大使館で見られ情報を参照してほしい。ふだんは「両論併記」にこだわる日本のメディアがこの件に関してはベネズエラ側からの情報をほとんど無視しているからだ。)
・声明サイト:http://for-venezuela-2019-jp.strikingly.com/
・駐日ベネズエラ大使館:https://venezuela.or.jp/news/ ) 

 いま、イランをめぐる「危機」が高まっている。しかしこれも、トランプ政権がイランとの核合意を一方的に破棄し(EUは保持している)、経済制裁を強めるだけでなく、イスラエルに一方的に肩入れして(エルサレムの首都承認、ゴラン高原の併合承認)イランを追い込んでいる。その上、愚かしい日本の首相を使いに行かせ、そのときに日本関連のタンカーを攻撃させて(誰に?)、起こす必要のない「危機」を作り出している。アメリカは1979年のイラン・イスラーム革命以来、あの手この手でイランを潰そうとしてきた。ここでたとえばゴラン高原(イスラエルはトランプ高原と改名)で盧溝橋でのような事件が起これば、イスラエルが一気にイランに攻撃をしかけることになるだろう。

 だからこの状況を「イラン危機」というのはおかしいだろう。アメリカによる「戦争の危機」だ。ベネズエラの状況もコンテクストを見れば同じような形である。(ベネズエラがうまくゆかないので、アメリカのネオコンがイランにシフトしたのかもしれない)。それは、とりわけ最近二十年の世界の状況を見ていれば明かなことである(コソボ紛争、一連の「テロとの戦争」、イラク戦争…)。「人道危機」はいつも軍事介入の口実にされるが、その原因を作っているのは、元はと言えば介入したがる国々の全般的な経済政策、とくに経済制裁である。

 朝日新聞のとりわけ国際報道は、この二十年の世界状況から何も学ぼうとはせず、アメリカの視点に立つことが先進国日本のメディアのあり方だと思って疑わないようである。そうこうするうちに、日本はもはや先進国とは言えないようになっている(さまざまな数値から見ても、アホなことまで閣議決定すると事実になるするカルト政権をもって平気だという内実からしても)。朝日新聞も、とりわけ国際報道は、そういう認識をしっかりもった方がよいだろう。それでないと産経にも対抗できなくなる。