2/4.日本記者クラブでのイシカワ駐日ベネズエラ大使の会見についての所見2026/02/05

 2月4日に日本記者クラブでイシカワ駐日ベネズエラ大使の会見が行われた。ベネズエラの首都カラカスが米軍の特殊作戦で襲われ、マドゥロ大統領夫妻が拉致されアメリカに連行さるという、米トランプ政権による前代未聞の狼藉があってから1月目にあたる。イシカワ大使の会見は、「強権」のマドゥロ政権がなくなってよかったが、後継のロドリゲス暫定大統領はマドゥロ側近で、ベネズエラにはまだ「自由」が回復していない、といった論調が跋扈する日本のメディアに、アメリカによるこのような国際法無視どころかあからさまな「主権蹂躙」の被害に遭い、かつそれを追認するような西側メディアの歪曲報道にさらされながら、ベネズエラ現政権がどのようにその尊厳を守り、主権の保持に屈することなく努めているかを訴えるためのものだった(と言うことができるだろう)。
 
 日本記者クラブは先週、アジア経済研究所の坂口安紀氏を招いて「ベネズエラはまだ変わっていない、自由の抑圧は続いている…」といった、米国による強引な「体制転換」の試みを後押しするような会見を垂れ流した――坂口氏は「強権」体制の「民主化」を求めるようなことを言うが、トランプ大統領は「民主主義など関係ない、われわれはもともとアメリカのものだった石油を取り戻すだけだ」とはっきり言っている。それに対して、日本記者クラブは、被害国であるベネズエラ側の言い分を聞く必要があったということだろう。

 イシカワ大使は、米軍攻撃の最初の衝撃と混乱をのりこえ、ベネズエラ市民が平静を取り戻し、市民生活も落ち着いて、マーケットに食料品なども十分に行き渡っている状況を示し、その一方で大勢の民衆が日々アメリカによる大統領夫妻拉致に講義してデモを行っていること、一部で言われるような「90%の市民がマドゥロ大統領の失脚」を喜んでいるといったニュースとは正反対に、野党勢力も含めて90%を超える人びとが大統領拉致に反対しているといった、ベネズエラ調査機関(アメリカの調査機関ではなく)の調査結果を紹介した。そして不測の大統領不在の間職務を代行するロドリゲス暫定大統領のもと、一方で国際法遵守を訴えながら、対話による交渉を通してであればベネズエラはどの国とも交渉する用意があることを迅速な実践によって示しているのだと。そして事実上成立したアメリカとの石油輸出は、アメリカの暴力に屈したからではなく、平和裡になら交渉を行うことができるし、アメリカは石油を得る一方、ベネズエラはその利益をただちに労働者の賃上げや困窮者対策に充てることができるということを示した。
 
 (その言外を読めば、この間、石油メジャーもそのような交渉ができなかったのは、アメリカが一方的に経済制裁を課し、ベネズエラとの取引を一切禁じていたからであり、そのような一方的なことをしなければ交渉はできるということだ。)
 
 ところが、その後の質疑応答で露呈したのは、参加していた記者たちの押しなべての無理解と質の低さだ。だいたい司会者からしておかしかった。最初の紹介で「…マドゥロ大統領がいなくなったあと、アメリカの承認を受けて就任したロドリゲス暫定大統領は…」という始末。マドゥロが不法にアメリカに強奪拉致されたとも言わず、ロドリゲスはアメリカに認められて就任した、という。すでに恐るべき偏見である。
 
 それに関する質問もあった。つまりロドリゲス暫定大統領の「合法性」問題であり、ほんとうはすぐに新大統領を選ぶ選挙をやらなければならないのではないか(そうしたらノーベル賞を受けたマチャードが大統領になれるのではないのか…)、(実際には副大統領だったロドリゲスは憲法規定にしたがって代行となり、最高裁で暫定大統領に任命された)、あるいは、前回選挙でマドゥロの当選は不正によるものであって、もともと「正統性」がないのではないか、といった質問。これに関しては、前々回もそうだし、19年にグワイド某(当時の輪番による国会議長)が対抗大統領を名乗り、それをただちにアメリカが承認して、グワイドはその後クーデターに失敗してアメリカに逃亡したことからも分かるように、対抗候補(いわゆる野党候補)が選挙に勝ったという情報そのものが胡乱な主張で、それが世界に広まったのはその「選挙不正」を直ちにアメリカ(とEU諸国)が承認したからに過ぎない。ベネズエラにはしっかりした三権分立の仕組みがあり、選挙管理委員会はそれからもまた独立している。それが認めたのはマドゥロの当選だとイシカワ大使は強調した。
 
 要するにほとんどの質問は、マドゥロは選挙不正で当選し、正統性がないのだから、トランプが拉致したのはその正統性の回復、言いかえれば民主主義の回復にはよかったのではないか、といった「国際法などどうでもいい」「国家主権なんて世界の民主主義のためには…」といった、トンデモな思い込みからなされていた。
 
 あきれ果ててものも言えないとはこのことである。産経新聞の記者がおおく当てられて発言していたが、おしなべてこの調子。時事通信、共同通信の記者も。朝日の退職記者というのに至っては、「大使、この報道の自由のある日本の記者クラブで、強権体制の代弁をするというたいへん窮屈なお役目、ごくろうさまです」みたいな口上で質問を始めた。どこまで間抜けの自覚のない尊大な大新聞の元記者かと、後ろから冷や水を浴びせてやりたかったが、かえってイシカワ大使の居心地を悪くしてもと思いとどまった。
 
 唯一、元TBSの金平氏が、マドゥロ拉致に関しての賛否のアンケートが坂口氏の挙げたものとイシカワ大使の挙げたものとでは真逆だが、どうしてこういうことになるのかと質問していたが、ほんとうはそんなことはイシカワ大使に聞くべきことではないのだ。イシカワ大使は自分だ客観的で事実を示しているというデータを挙げている。真逆のデータを挙げた方が説明すべきだし、その当否を判断するのはジャーナリストの役目ではないのか。
 
 最後にトランプの「ドンロー主義」についてウェブ参加者からの質問があったが、これもイシカワ大使に聞いてもしかたがない。これへの答えの中で大使は「プロフェサー・オサム・ニシタニが"長周新聞"に書いた記事がとても興味深かったから参照されたい」と、記者たちに"勉強"を促した。ちなみに、もう長時間慣れない話で疲れていたらしい通訳の人は、「長周新聞」など知らないらしく「中日新聞」と訳していた。それは後でユーチューブか何かで確かめたのだが(その直前に所用があって中座した)、この分ではその前にもご当人の知らないことはかなり勝手に訳していたのではないかと心配になった。たとえば司会者が初めに述べたことなど、日本語では露骨なニュアンスが出ていたのだが、これなど正確にスペイン語に訳していたのだろうか(訳していたとしたら、イシカワ大使冒頭からムッとしたかもしれない)。