アメリカという裁き手を名乗る強盗国家――「体制転換」のあられもない実態2026/01/04

 権力の行使に歯止めがないトランプならほんとうにやりそうだが、軍事圧力をかけてベネズエラ国内の動揺と混乱を誘い(そのためにすでにCIAに作戦命令を出してある)、それを口実に米軍が「人道的介入」と称してマドゥロ政権制圧に乗り出してゆくのだろうと思っていたが、体裁を気にしない「無頼」の不動産屋トランプは、新年早々首都カラカス他に「大規模な」攻撃をしかけて、マドゥロ大統領夫妻を拘束し国外に拉致したという(発表はトランプがSNSで、ルビオは米国内で裁くと言っている――1989年のバナマのノリエガのときのように)。

 これだけのことをされても(大国が強盗のように国に押し入って大統領を拉致した)、ベネズエラ(政府)はアメリカに対して宣戦布告するなどできない(圧倒的な軍事力の差、公式に戦争状態になればベネズエラはひとたまりもない)。国連に訴え、国際社会に米国のこの暴挙を抑えてもらうしかない。だが、ロシアがウクライナに侵攻したとき万雷の拍手でロシア非難を議決したように、とりわけ影響力をもつはずの「西側」諸国は米国を弾劾するだろうか? それにもともとアメリカは国連のパトロンのように振舞っている。

 では、どうなるのか?ベネズエラ政府がマドゥロの臨時代行を立てても、アメリカがそれを認めなければ、軍事圧力や経済制裁が続き、統治機構がうまく働かなくなる。そこでノーベル賞のマチャドが、去年の大統領選で「勝った」と主張するスペイン亡命中のゴンザーレスを連れ戻して「正統大統領」とし、それをアメリカが承認して(すでに承認している)ベネズエラの「民主化」が果たされたとして、石油利権なども含めた新「安保」条約を結んで庇護下におく。そうすればベネズエラはチャベス登場以前の「親米国」になる。それがアメリカの描いている筋書きだろう(トランプのやり方は酷いが、ことがこう進めば誰も基本的に文句は言わない)。

 コロンビアやメキシコが「主権侵害」を訴えトランプを非難してもトランプには痛くも痒くもない。ロシアやイランが批判しても両国はもともとアメリカにとって制裁の対象だ。では中国は?中国とてアメリカを抑える有効な手はないだろう(トランプを個人的に脅すことはできるかもしれないが)。エプスタイン文書問題や経済失政問題を抱えるトランプに「偉大なアメリカ」を示す格好のチャンスであるこのベネズエラ案件を諦めさせるのは至難のわざだろう。

 となると、アメリカの筋書き通りになるしかないのか?だが、今のマドゥロ体制を支えてきたのは、その「強権支配」でも「独裁」でもなく、主権意識に目ざめた全国幾千ものコムーナに集う人々の活動である。コムーナは地域生活共同体で、その相互協力で多くの人びとの生活が成立ち、だからアメリカによる強力な経済制裁やコロナ封鎖があっても、多くの人びとが生き残ることができたのだ。個人の持てる者の自由の体制の下では貧困にあえぐしかなった貧民窟や地方の荒廃した農村の人びとは、小規模の地域生活共同体を組織することで、通常の経済システムとは相対的に自立した地域で社会生活を営むことができるようになったのだ。彼らはマチャドのような「野党」勢力代表がアメリカの後ろ盾で戻ってきたら、それこそ2002年にチャベスがクーデター派に拉致された時のように、全国から集まってその政権を倒すことだろう。だがその時には、アメリカに武装された「自由派政権」とコムーナの民衆との間で再び「内戦」が起こるだろう。その戦いにアメリカが「テロとの戦争」と称して再介入したら、ベネズエラの混乱は長く続くことになる(現代のベトナム戦争のようになるのだ)。

 だからここは、アメリカが引くしかない(マドゥロ夫妻を返し、カリブ海に展開する軍も撤収する)が、トランプ(とルビオ、ヘグゼス)にかぎってそれはないだろう。アメリカ国内でその横紙破りの「違法性」に非難が高まり、エプスタイン文書の追及も相まってトランプが進退窮まらないかぎり。国連でも、ヨーロッパ諸国は「西半球」のことには口出ししにくいという米欧関係の歴史的事情もあり、ウクライナ問題と違ってヨーロッパの利害にじかに関わるわけではないから、トランプの機嫌をいたずらに損ねるのには躊躇するといったところだろう(それに以前から、ベネズエラの体制を「強権支配」だとして批判してきた)。
 
 こんなことは、トランプ政権でマイアミ・マフィアのマルコ・ルビオが国務長官になったときから、そして夏以降カリブ海での動きが不穏になったときにはほぼ確実に予測されたことだ。とはいえトランプがこれほどあられもなく見境もなく抜け抜けとアメリカ大統領として「強盗行為」を仕掛けるとはさすがに思わなかった。それほどトランプが焦っている(歳も歳)ということでもあるだろうが、どんなに自分が見越していても、世に訴える手段もなく(メディアでは西側フェイクの情報ばかりが流れる)、この暴挙を実行を前に悲憤慨嘆するとともに、ただただベネズエラの人びとの巻き込まれる混乱を思うと、非力に胸潰れるばかりである。

*長周新聞「アメリカはなぜベネズエラを嫌うのか――ボリバル革命とコムーナ」(2025年11月7日)をぜひ参照されたい。
https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/36290