アメリカという裁き手を名乗る強盗国家――「体制転換」のあられもない実態 ― 2026/01/04
権力の行使に歯止めがないトランプならほんとうにやりそうだが、軍事圧力をかけてベネズエラ国内の動揺と混乱を誘い(そのためにすでにCIAに作戦命令を出してある)、それを口実に米軍が「人道的介入」と称してマドゥロ政権制圧に乗り出してゆくのだろうと思っていたが、体裁を気にしない「無頼」の不動産屋トランプは、新年早々首都カラカス他に「大規模な」攻撃をしかけて、マドゥロ大統領夫妻を拘束し国外に拉致したという(発表はトランプがSNSで、ルビオは米国内で裁くと言っている――1989年のバナマのノリエガのときのように)。
これだけのことをされても(大国が強盗のように国に押し入って大統領を拉致した)、ベネズエラ(政府)はアメリカに対して宣戦布告するなどできない(圧倒的な軍事力の差、公式に戦争状態になればベネズエラはひとたまりもない)。国連に訴え、国際社会に米国のこの暴挙を抑えてもらうしかない。だが、ロシアがウクライナに侵攻したとき万雷の拍手でロシア非難を議決したように、とりわけ影響力をもつはずの「西側」諸国は米国を弾劾するだろうか? それにもともとアメリカは国連のパトロンのように振舞っている。
では、どうなるのか?ベネズエラ政府がマドゥロの臨時代行を立てても、アメリカがそれを認めなければ、軍事圧力や経済制裁が続き、統治機構がうまく働かなくなる。そこでノーベル賞のマチャドが、去年の大統領選で「勝った」と主張するスペイン亡命中のゴンザーレスを連れ戻して「正統大統領」とし、それをアメリカが承認して(すでに承認している)ベネズエラの「民主化」が果たされたとして、石油利権なども含めた新「安保」条約を結んで庇護下におく。そうすればベネズエラはチャベス登場以前の「親米国」になる。それがアメリカの描いている筋書きだろう(トランプのやり方は酷いが、ことがこう進めば誰も基本的に文句は言わない)。
コロンビアやメキシコが「主権侵害」を訴えトランプを非難してもトランプには痛くも痒くもない。ロシアやイランが批判しても両国はもともとアメリカにとって制裁の対象だ。では中国は?中国とてアメリカを抑える有効な手はないだろう(トランプを個人的に脅すことはできるかもしれないが)。エプスタイン文書問題や経済失政問題を抱えるトランプに「偉大なアメリカ」を示す格好のチャンスであるこのベネズエラ案件を諦めさせるのは至難のわざだろう。
となると、アメリカの筋書き通りになるしかないのか?だが、今のマドゥロ体制を支えてきたのは、その「強権支配」でも「独裁」でもなく、主権意識に目ざめた全国幾千ものコムーナに集う人々の活動である。コムーナは地域生活共同体で、その相互協力で多くの人びとの生活が成立ち、だからアメリカによる強力な経済制裁やコロナ封鎖があっても、多くの人びとが生き残ることができたのだ。個人の持てる者の自由の体制の下では貧困にあえぐしかなった貧民窟や地方の荒廃した農村の人びとは、小規模の地域生活共同体を組織することで、通常の経済システムとは相対的に自立した地域で社会生活を営むことができるようになったのだ。彼らはマチャドのような「野党」勢力代表がアメリカの後ろ盾で戻ってきたら、それこそ2002年にチャベスがクーデター派に拉致された時のように、全国から集まってその政権を倒すことだろう。だがその時には、アメリカに武装された「自由派政権」とコムーナの民衆との間で再び「内戦」が起こるだろう。その戦いにアメリカが「テロとの戦争」と称して再介入したら、ベネズエラの混乱は長く続くことになる(現代のベトナム戦争のようになるのだ)。
だからここは、アメリカが引くしかない(マドゥロ夫妻を返し、カリブ海に展開する軍も撤収する)が、トランプ(とルビオ、ヘグゼス)にかぎってそれはないだろう。アメリカ国内でその横紙破りの「違法性」に非難が高まり、エプスタイン文書の追及も相まってトランプが進退窮まらないかぎり。国連でも、ヨーロッパ諸国は「西半球」のことには口出ししにくいという米欧関係の歴史的事情もあり、ウクライナ問題と違ってヨーロッパの利害にじかに関わるわけではないから、トランプの機嫌をいたずらに損ねるのには躊躇するといったところだろう(それに以前から、ベネズエラの体制を「強権支配」だとして批判してきた)。
こんなことは、トランプ政権でマイアミ・マフィアのマルコ・ルビオが国務長官になったときから、そして夏以降カリブ海での動きが不穏になったときにはほぼ確実に予測されたことだ。とはいえトランプがこれほどあられもなく見境もなく抜け抜けとアメリカ大統領として「強盗行為」を仕掛けるとはさすがに思わなかった。それほどトランプが焦っている(歳も歳)ということでもあるだろうが、どんなに自分が見越していても、世に訴える手段もなく(メディアでは西側フェイクの情報ばかりが流れる)、この暴挙を実行を前に悲憤慨嘆するとともに、ただただベネズエラの人びとの巻き込まれる混乱を思うと、非力に胸潰れるばかりである。
*長周新聞「アメリカはなぜベネズエラを嫌うのか――ボリバル革命とコムーナ」(2025年11月7日)をぜひ参照されたい。
https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/36290
これだけのことをされても(大国が強盗のように国に押し入って大統領を拉致した)、ベネズエラ(政府)はアメリカに対して宣戦布告するなどできない(圧倒的な軍事力の差、公式に戦争状態になればベネズエラはひとたまりもない)。国連に訴え、国際社会に米国のこの暴挙を抑えてもらうしかない。だが、ロシアがウクライナに侵攻したとき万雷の拍手でロシア非難を議決したように、とりわけ影響力をもつはずの「西側」諸国は米国を弾劾するだろうか? それにもともとアメリカは国連のパトロンのように振舞っている。
では、どうなるのか?ベネズエラ政府がマドゥロの臨時代行を立てても、アメリカがそれを認めなければ、軍事圧力や経済制裁が続き、統治機構がうまく働かなくなる。そこでノーベル賞のマチャドが、去年の大統領選で「勝った」と主張するスペイン亡命中のゴンザーレスを連れ戻して「正統大統領」とし、それをアメリカが承認して(すでに承認している)ベネズエラの「民主化」が果たされたとして、石油利権なども含めた新「安保」条約を結んで庇護下におく。そうすればベネズエラはチャベス登場以前の「親米国」になる。それがアメリカの描いている筋書きだろう(トランプのやり方は酷いが、ことがこう進めば誰も基本的に文句は言わない)。
コロンビアやメキシコが「主権侵害」を訴えトランプを非難してもトランプには痛くも痒くもない。ロシアやイランが批判しても両国はもともとアメリカにとって制裁の対象だ。では中国は?中国とてアメリカを抑える有効な手はないだろう(トランプを個人的に脅すことはできるかもしれないが)。エプスタイン文書問題や経済失政問題を抱えるトランプに「偉大なアメリカ」を示す格好のチャンスであるこのベネズエラ案件を諦めさせるのは至難のわざだろう。
となると、アメリカの筋書き通りになるしかないのか?だが、今のマドゥロ体制を支えてきたのは、その「強権支配」でも「独裁」でもなく、主権意識に目ざめた全国幾千ものコムーナに集う人々の活動である。コムーナは地域生活共同体で、その相互協力で多くの人びとの生活が成立ち、だからアメリカによる強力な経済制裁やコロナ封鎖があっても、多くの人びとが生き残ることができたのだ。個人の持てる者の自由の体制の下では貧困にあえぐしかなった貧民窟や地方の荒廃した農村の人びとは、小規模の地域生活共同体を組織することで、通常の経済システムとは相対的に自立した地域で社会生活を営むことができるようになったのだ。彼らはマチャドのような「野党」勢力代表がアメリカの後ろ盾で戻ってきたら、それこそ2002年にチャベスがクーデター派に拉致された時のように、全国から集まってその政権を倒すことだろう。だがその時には、アメリカに武装された「自由派政権」とコムーナの民衆との間で再び「内戦」が起こるだろう。その戦いにアメリカが「テロとの戦争」と称して再介入したら、ベネズエラの混乱は長く続くことになる(現代のベトナム戦争のようになるのだ)。
だからここは、アメリカが引くしかない(マドゥロ夫妻を返し、カリブ海に展開する軍も撤収する)が、トランプ(とルビオ、ヘグゼス)にかぎってそれはないだろう。アメリカ国内でその横紙破りの「違法性」に非難が高まり、エプスタイン文書の追及も相まってトランプが進退窮まらないかぎり。国連でも、ヨーロッパ諸国は「西半球」のことには口出ししにくいという米欧関係の歴史的事情もあり、ウクライナ問題と違ってヨーロッパの利害にじかに関わるわけではないから、トランプの機嫌をいたずらに損ねるのには躊躇するといったところだろう(それに以前から、ベネズエラの体制を「強権支配」だとして批判してきた)。
こんなことは、トランプ政権でマイアミ・マフィアのマルコ・ルビオが国務長官になったときから、そして夏以降カリブ海での動きが不穏になったときにはほぼ確実に予測されたことだ。とはいえトランプがこれほどあられもなく見境もなく抜け抜けとアメリカ大統領として「強盗行為」を仕掛けるとはさすがに思わなかった。それほどトランプが焦っている(歳も歳)ということでもあるだろうが、どんなに自分が見越していても、世に訴える手段もなく(メディアでは西側フェイクの情報ばかりが流れる)、この暴挙を実行を前に悲憤慨嘆するとともに、ただただベネズエラの人びとの巻き込まれる混乱を思うと、非力に胸潰れるばかりである。
*長周新聞「アメリカはなぜベネズエラを嫌うのか――ボリバル革命とコムーナ」(2025年11月7日)をぜひ参照されたい。
https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/36290
トランプの「ドンロー主義」と国際法秩序 (ルモンド・ディプロ日本版) ― 2026/01/26
○世界の「危機」――アメリカの「無法」
いま、アメリカのトランプ大統領の言動をめぐって起きている事柄を、国際政治や解釈理論の常套句・常套論理を離れて、突っ込んで適確な用語で語ってみたい。
まず、トランプの言動は本人がそう言うようにあらゆる国際法を無視している。それでもベネズエラの大統領夫妻を特殊攻撃で拉致して、アメリカ法下の罪人として裁こうとしたり、ベネズエラを「統治」すると公言したり、その資源を我が物として強奪するそぶりをしたりすることが「可能」なのは(事実上やっている)、アメリカがその軍事力と諜報組織、金融システムとグロバールなPR手段をもっていて、それを「無制約」に使っているからである。当然ながらこの種の行為は、強大国家の「権力」の見境のない発露、すなわち力任せの「暴力」行為であり、国家権力の相互抑制システムである「国際法秩序」のあられもない蹂躙である。そのことをまずは国際社会は明言しなければならない。
それと、トランプ大統領のこの「異常さ」は、私的な欲望・願望と公的職務権限とに区別がないことにある(一期目にはこの融合が妨げられたので、二期目は人事でその障害を取り除いた)。これは社会的に診断するならすでに「狂気」と言わざるをえない。「私が大統領なのだから、私の言明・命令は、アメリカ国家の意志遂行の行為である」というのは、私的願望主体と「職務権限」との区別のつかない反社会的「病理」である。
だが、それが通ってしまうのは、現代社会のコミュニケーション・インフラがSNSであるからだ。SNSの基本的特徴は、私的メッセージが、そのままヴァーチャルな「公共」空間に流れることだ。それが「言論の自由」を広げるとして、売りに出されているのがこの主のメディアだ。そしてそこでは「真理にもはや価値はない」(ポスト・トゥルース)。「良貨は悪貨を駆逐する」と言われるように、「受け」さえすればそれが「選ばれたメッセージ」だということになる。そのうえ権力者がそれを使えば、そのメッセージは私的であっても公共的ステイタスをもって流通する。そんなメディア・インフラの性格が、現代政治にトランプ的「病理」を助長することになっている。この「見境がない」という個人的資質と、メディア・インフラの「解放系」とが相まって、トランプの「無規範性・無法性」に実際的効果をもたせている。
だから、いま世界に「危機」があるとすれば、それはパレスチナでもウクライナでもベネズエラでもなく、「最強国」(じつはそれ自体が今では「妄想」なのだが)が「無法者」と化しているというその事態にある。要するに現代世界が直面しているのは、「専制主義国の脅威」などではもはやなく、「アメリカが無法者になった」というこの「問題」なのである(その背景にあるのは、枯渇資源確保の妄執と、ヴァ―チャル世界へのエグジット妄想だが、これについては別に扱おう)。
○「自由の西半球」――ウェストファリア体制からの離脱
しかしじつはこの「無法」はトランプ個人の問題ではない。アメリカ合州国という「国」がいかにして形成されたのかを考えれば、ヨーロッパからの離脱を宣言したいわゆる「モンロー主義」がアメリカの建国原理に根ざしたものであることが分かる。
もともと国際法秩序とはヨーロッパでできたものである。ヨーロッパ全域を戦争に巻き込んだ30年戦争(17世紀前半)の後で、もう宗教を戦争の口実にしない、領土を一元統治する主権国家だけが戦争をすることができる、ただし戦争は正当な決まりに従って行う(戦争を平時とは別の法状態におく)等々 を決めて国家間関係を約定した。これが「戦争と平和」の国際法秩序であり、ウェストファリア体制と呼ばれるものだ。
ところが、ここに場を見出さなかったイギリス清教徒たちが、「海の彼方は自由」という当時のヨーロッパ法理(グロチウス)に期待して大西洋を越えて移住し、そこに「信仰の自由な地」を開こうとした。彼らは英国王の特許のもと、先住民を無視して土地を取得し開発し、いくつかの植民地(州)を作り上げた。その事業はじつは、植民会社という民間企業の事業として展開された(植民者はこの会社の株主でもあり、特許に従って土地を私的所有し、それをもとに「解放された」地域を開発、町や港湾や砦を作る)。この企業は先住民を「不法居住者」として追い立て、反抗を受けると「無法な野蛮人」として掃討し、そこにできた空白を自らの「自由」な事業展開の場として発展した。これが「新しいイスラエル」と称えられた(初代ニューイングランド総督)「新世界アメリカ」である。
そしてやがてそれに税金を課す王権を「特許状違反」と嫌って、英領十三の州が連合して「独立」をめざすようになる。そのために連邦政府ができるが、それは私企業の「統治経営」によってできた各州が、その自由経営権を守るための連合、いわば武装した「持ち株会社」のようなものだった。そして英王権を排して、アメリカ合州国はその自由経営統治権を確立したのである。そしてその仕組みが株主たち(私的所有権者たち)の「民主主義」なのである――そこには所有権の観念をもたない先住民や貧民にはまったく権利がない。
その意味で、アメリカ合州国とは、私企業の連合統治体であり、ヨーロッパ国際秩序を作った主権領邦国家とは成立ちがまったく違う。そのため、合州国に刺激されてラテンアメリカでも独立運動が起こると、「古い帝国」支配下にあったラ米諸国の独立を支持して、合州国はヨーロッパとの相互不干渉政策、いわゆるモンロー宣言を打ち出す。つまり、アメリカはヨーロッパ的な国際法秩序に従わないとして、「自由の西半球」を宣言したわけである。
○アメリカの対外戦争
アメリカには初めから「原資」があった。先住民から奪った土地がそのまま不動産という資産となり、それに付属する資源も何もすべて企業家の私有財産になったからだ。
こうして封建制のしがらみもなく、建国半世紀で北米大陸中央のすべてが資産となり、初めから近代産業体制が成立して(黒人や後の移民が豊富な労働力)、一九世紀末には世界一の工業国になった。「フロンティアの消滅」で先住民掃討の主役だった騎兵隊の仕事がなくなると、それを海外上陸用の部隊・海兵隊に組み替えて、まずスペインの植民地だったキューバ(ついでにフィリピン)を「解放」、つまり「自由市場」に解放して属国化し、ラテンアメリカ全域を「アメリカ化」しようとする矢先、ヨーロッパが植民地獲得競争(帝国主義)の仲間割れから「欧州大戦」に陥った。そこでアメリカ合州国はモンロー主義を捨てて、西洋的世界秩序にかぶさり、以後、世界統治に関与するようになる。
ただしそのとき、国内での抵抗が強かったため(古いヨーロッパなど捨ておけ、西半球の解放で十分だ…)、ウィルソン政権は参戦(海外派兵)のための強力なイデオロギーを打ち出さざるをえなかった。それが「アメリカの民主主義をヨーロッパへ」だった(アメリカの民主主義とは、国王や帝権を廃した民間企業家たちの独自政体だ)。
それ以来、アメリカの戦争(海外派兵)はたんなる権益をめぐる抗争ではなくイデオロギー戦争になる(そのためPR会社が活躍する)。第二次世界大戦は「ファシズムから民主主義を守る」、冷戦期は「共産主義対自由主義」(国家管理対私的所有権体制)、そうして冷戦後「西側の自由と民主主義」が勝利したことになって、グローバル市場一元化が達成されるとアメリカ原理(新自由主義)が規範のバッスク・アメリカーナの時代になる。だが、9・11で初めてアメリカ本土が襲撃され、「核抑止」体制そのものが破られたため、アメリカは「新たな敵」を「テロリスト」と指定し、人権の埒外においてグローバル規模でその殲滅戦を始める。いわゆる「テロとの戦争」だが、その構造はグローバル規模での「インディアン戦争」であり、無法を法とする超法規戦争だった。しかし、そのコストがあまりに高かったため(敵が見えないので限界も見えない)、バイデン政権のときにアメリカは、冷戦秩序を焼き直して「民主主義対専制主義」という対立図式を作り、「専制主義国の危険」で世界を戦争管理しようとする。
それが国際法秩序を抱え込んだアメリカ合衆国の振舞いだった。
○国連(UN)、第三世界、NATO
この間に国際法秩序の行方に関して重要なことが三つあった。
ひとつは国際連合の形成。これは破綻したウェストファリア体制の原理を変更して普遍化しようとするものだった。この西洋的国際法秩序は、主権国家の戦争権を軸に作られていたが、主要国がすべて産業化され、戦争になれば総動員・総力戦で双方に甚大な被害が出るうえに、原爆まで開発されてしまった。だから戦争を前提としては破滅の秩序しかできないというわけで、新しい国際法体制は「非戦」を原理とすることになった(ただし、それを最強国は受け入れないので「自衛のための戦争」だけは可とする)。さらに各国は国を超えて「人権」を擁護しなければならないことになった。そこから、相互承認・協調・互恵の原則が生まれる。
ただし、この体制は米ソの「冷戦」対立によって骨抜きにされていた。それを実質化しようとしたのが、旧西洋植民地から続々と独立したアジア・アフリカの国々だった。AA諸国は1955年に初めての会合を開く(バンドン会議)。そこにやがて、アメリカ合州国の「裏庭」とされた国々が加わり、「アジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国会議」となる。それまで世界秩序形成の主体となったことのなかったこの国々は、米ソいずれの超大国にも与せず「非同盟」の連携でそれぞれの国の独立・協調・発展のために協力する形をとった。後に言われる「第三世界」である。
その数の多さで国連体制のなかで重きを増してくると、ソ連の崩壊を見越した西側主要国は国連の外に「G7」を結成し、冷戦後の世界の「管理・運営」にあたろうとした。「西側」はそうて冷戦後にはその存在意義をなくそうとしたのである。その一方でアメリカは冷戦後も反ソ同盟NATOを解消しようとしなかった。それはEU諸国がロシア・中国と新たな関係を作り出して合州国を海の向こうに孤立させるようなことにならないよう、EUをつなぎとめるためである。だから冷戦後も「北大西洋同盟」は残って「西側」を支えることになった。
○トランプの「ドンロー主義」とは何か?
トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げて登場した。これは他の小国の「自国ファースト」と似ているようでじつはまったく違う。アメリカは「古いヨーロッパを延命させる世界統治などに関わって、持ち出しだけが多く自国の豊かさ強さは蝕まれてしまった。もう世界統治などには関わらない。国際法秩序などは関係ないのだ。アメリカはもともとその外部に出て、束縛を受けない"自由"を獲得したのだから」というモンロー主義回帰宣言なのである。
他の言い方をすれば、もはやイデオロギーで戦争の管理はやらない、強奪が「力の正義」だからだということだ(力で粉砕すれば敵はおとなしくなる。つまり「平和」になる。だからトランプは「ノーベル平和賞」を受ける資格があると思っている)。
「アメリカの衰退」はどこに現れているのか?アメリカ社会内部の脆弱化がその表れだが、何よりも明らかなのは、アメリカが「西側」の面倒を見ているうちに、古いチャイナが強く大きくなってしまったではないか、バイデンたちは「東アジア危機」とかを作って封じ込めようとしてきたけれど、もはや中国には関税もかけられないのが実情だ。つまり中国はもうアメリカが国際法のイデオロギーで抑え込める「敵」ではない。だからもう山賊・海賊同士のディールしかない、というわけだ。
だからアメリカは今や本来の「西半球」に注力する。そして「西半球」が「自由の領域」であることを足場に海賊船を出す、ということだ。ついでに言えば、中東は石油確保(国家としてというよりメジャー企業がそれで儲ける)ができればよいから、統治支配はイスラエルに任せる。何よりイスラエルは、先住民抹殺の上に「自由の国」を作ったアメリカと同じ原理を押し通す国だから。
カナダは51番目の州にするし、グリーンランドは北極圏を抑えるための要所、西半球の一部だ。これはEUが何といおうと(どうせ植民地支配じゃないか)金で「解放する」(ダボス会議でゴタゴタ言う連中をこうして初めから脅しておく)。
ベネズエラの石油は当然アメリカのもの、どんなことをしてでも「取り戻す」。力で脅せばみんなトランプ・アメリカになびかざるをえないだろうと。
○新たな「国際法秩序」の担い手
要するにトランプ・アメリカとは、その国家形成原理に立ち戻り、国際法秩序の「外」に出たアメリカなのである。
それを、「手のひらを返された」と思うEUは「法と秩序」とか「自由貿易」とか今さらのように言う。しかし、合州国の庇護のもとにEU諸国は世界ヘゲモニーを維持しようとしてきたが、植民地支配の遺産を食いつぶしてからは、地球温暖化の問題やデジタルIT化による社会解体などで、じつはもう世界をリードする力を実質的には失っている。にもかかわらず、G7などと称して世界統治のかじ取りを担うと主張してきたのである。
いま世界史規模で起きているのは米・欧が結んだ「西洋」の分裂と崩壊である。
そこで「国際法秩序」を最も必要として、それを尊重し尊重させざるを得ないのは、力で世界を制覇したことのない国々、するべくもない国々、「西洋的秩序」につごうよくとり込まれるか・あるいは締め出されてきた旧「第三世界」の国々である。それだけが今、国連を必要とし、国連を支えようとする(国連総会を軸にして)国々であり、「核抑止力」など持たないがゆえに国際法秩序を正統的に要求しうる勢力である。
いま、アメリカのトランプ大統領の言動をめぐって起きている事柄を、国際政治や解釈理論の常套句・常套論理を離れて、突っ込んで適確な用語で語ってみたい。
まず、トランプの言動は本人がそう言うようにあらゆる国際法を無視している。それでもベネズエラの大統領夫妻を特殊攻撃で拉致して、アメリカ法下の罪人として裁こうとしたり、ベネズエラを「統治」すると公言したり、その資源を我が物として強奪するそぶりをしたりすることが「可能」なのは(事実上やっている)、アメリカがその軍事力と諜報組織、金融システムとグロバールなPR手段をもっていて、それを「無制約」に使っているからである。当然ながらこの種の行為は、強大国家の「権力」の見境のない発露、すなわち力任せの「暴力」行為であり、国家権力の相互抑制システムである「国際法秩序」のあられもない蹂躙である。そのことをまずは国際社会は明言しなければならない。
それと、トランプ大統領のこの「異常さ」は、私的な欲望・願望と公的職務権限とに区別がないことにある(一期目にはこの融合が妨げられたので、二期目は人事でその障害を取り除いた)。これは社会的に診断するならすでに「狂気」と言わざるをえない。「私が大統領なのだから、私の言明・命令は、アメリカ国家の意志遂行の行為である」というのは、私的願望主体と「職務権限」との区別のつかない反社会的「病理」である。
だが、それが通ってしまうのは、現代社会のコミュニケーション・インフラがSNSであるからだ。SNSの基本的特徴は、私的メッセージが、そのままヴァーチャルな「公共」空間に流れることだ。それが「言論の自由」を広げるとして、売りに出されているのがこの主のメディアだ。そしてそこでは「真理にもはや価値はない」(ポスト・トゥルース)。「良貨は悪貨を駆逐する」と言われるように、「受け」さえすればそれが「選ばれたメッセージ」だということになる。そのうえ権力者がそれを使えば、そのメッセージは私的であっても公共的ステイタスをもって流通する。そんなメディア・インフラの性格が、現代政治にトランプ的「病理」を助長することになっている。この「見境がない」という個人的資質と、メディア・インフラの「解放系」とが相まって、トランプの「無規範性・無法性」に実際的効果をもたせている。
だから、いま世界に「危機」があるとすれば、それはパレスチナでもウクライナでもベネズエラでもなく、「最強国」(じつはそれ自体が今では「妄想」なのだが)が「無法者」と化しているというその事態にある。要するに現代世界が直面しているのは、「専制主義国の脅威」などではもはやなく、「アメリカが無法者になった」というこの「問題」なのである(その背景にあるのは、枯渇資源確保の妄執と、ヴァ―チャル世界へのエグジット妄想だが、これについては別に扱おう)。
○「自由の西半球」――ウェストファリア体制からの離脱
しかしじつはこの「無法」はトランプ個人の問題ではない。アメリカ合州国という「国」がいかにして形成されたのかを考えれば、ヨーロッパからの離脱を宣言したいわゆる「モンロー主義」がアメリカの建国原理に根ざしたものであることが分かる。
もともと国際法秩序とはヨーロッパでできたものである。ヨーロッパ全域を戦争に巻き込んだ30年戦争(17世紀前半)の後で、もう宗教を戦争の口実にしない、領土を一元統治する主権国家だけが戦争をすることができる、ただし戦争は正当な決まりに従って行う(戦争を平時とは別の法状態におく)等々 を決めて国家間関係を約定した。これが「戦争と平和」の国際法秩序であり、ウェストファリア体制と呼ばれるものだ。
ところが、ここに場を見出さなかったイギリス清教徒たちが、「海の彼方は自由」という当時のヨーロッパ法理(グロチウス)に期待して大西洋を越えて移住し、そこに「信仰の自由な地」を開こうとした。彼らは英国王の特許のもと、先住民を無視して土地を取得し開発し、いくつかの植民地(州)を作り上げた。その事業はじつは、植民会社という民間企業の事業として展開された(植民者はこの会社の株主でもあり、特許に従って土地を私的所有し、それをもとに「解放された」地域を開発、町や港湾や砦を作る)。この企業は先住民を「不法居住者」として追い立て、反抗を受けると「無法な野蛮人」として掃討し、そこにできた空白を自らの「自由」な事業展開の場として発展した。これが「新しいイスラエル」と称えられた(初代ニューイングランド総督)「新世界アメリカ」である。
そしてやがてそれに税金を課す王権を「特許状違反」と嫌って、英領十三の州が連合して「独立」をめざすようになる。そのために連邦政府ができるが、それは私企業の「統治経営」によってできた各州が、その自由経営権を守るための連合、いわば武装した「持ち株会社」のようなものだった。そして英王権を排して、アメリカ合州国はその自由経営統治権を確立したのである。そしてその仕組みが株主たち(私的所有権者たち)の「民主主義」なのである――そこには所有権の観念をもたない先住民や貧民にはまったく権利がない。
その意味で、アメリカ合州国とは、私企業の連合統治体であり、ヨーロッパ国際秩序を作った主権領邦国家とは成立ちがまったく違う。そのため、合州国に刺激されてラテンアメリカでも独立運動が起こると、「古い帝国」支配下にあったラ米諸国の独立を支持して、合州国はヨーロッパとの相互不干渉政策、いわゆるモンロー宣言を打ち出す。つまり、アメリカはヨーロッパ的な国際法秩序に従わないとして、「自由の西半球」を宣言したわけである。
○アメリカの対外戦争
アメリカには初めから「原資」があった。先住民から奪った土地がそのまま不動産という資産となり、それに付属する資源も何もすべて企業家の私有財産になったからだ。
こうして封建制のしがらみもなく、建国半世紀で北米大陸中央のすべてが資産となり、初めから近代産業体制が成立して(黒人や後の移民が豊富な労働力)、一九世紀末には世界一の工業国になった。「フロンティアの消滅」で先住民掃討の主役だった騎兵隊の仕事がなくなると、それを海外上陸用の部隊・海兵隊に組み替えて、まずスペインの植民地だったキューバ(ついでにフィリピン)を「解放」、つまり「自由市場」に解放して属国化し、ラテンアメリカ全域を「アメリカ化」しようとする矢先、ヨーロッパが植民地獲得競争(帝国主義)の仲間割れから「欧州大戦」に陥った。そこでアメリカ合州国はモンロー主義を捨てて、西洋的世界秩序にかぶさり、以後、世界統治に関与するようになる。
ただしそのとき、国内での抵抗が強かったため(古いヨーロッパなど捨ておけ、西半球の解放で十分だ…)、ウィルソン政権は参戦(海外派兵)のための強力なイデオロギーを打ち出さざるをえなかった。それが「アメリカの民主主義をヨーロッパへ」だった(アメリカの民主主義とは、国王や帝権を廃した民間企業家たちの独自政体だ)。
それ以来、アメリカの戦争(海外派兵)はたんなる権益をめぐる抗争ではなくイデオロギー戦争になる(そのためPR会社が活躍する)。第二次世界大戦は「ファシズムから民主主義を守る」、冷戦期は「共産主義対自由主義」(国家管理対私的所有権体制)、そうして冷戦後「西側の自由と民主主義」が勝利したことになって、グローバル市場一元化が達成されるとアメリカ原理(新自由主義)が規範のバッスク・アメリカーナの時代になる。だが、9・11で初めてアメリカ本土が襲撃され、「核抑止」体制そのものが破られたため、アメリカは「新たな敵」を「テロリスト」と指定し、人権の埒外においてグローバル規模でその殲滅戦を始める。いわゆる「テロとの戦争」だが、その構造はグローバル規模での「インディアン戦争」であり、無法を法とする超法規戦争だった。しかし、そのコストがあまりに高かったため(敵が見えないので限界も見えない)、バイデン政権のときにアメリカは、冷戦秩序を焼き直して「民主主義対専制主義」という対立図式を作り、「専制主義国の危険」で世界を戦争管理しようとする。
それが国際法秩序を抱え込んだアメリカ合衆国の振舞いだった。
○国連(UN)、第三世界、NATO
この間に国際法秩序の行方に関して重要なことが三つあった。
ひとつは国際連合の形成。これは破綻したウェストファリア体制の原理を変更して普遍化しようとするものだった。この西洋的国際法秩序は、主権国家の戦争権を軸に作られていたが、主要国がすべて産業化され、戦争になれば総動員・総力戦で双方に甚大な被害が出るうえに、原爆まで開発されてしまった。だから戦争を前提としては破滅の秩序しかできないというわけで、新しい国際法体制は「非戦」を原理とすることになった(ただし、それを最強国は受け入れないので「自衛のための戦争」だけは可とする)。さらに各国は国を超えて「人権」を擁護しなければならないことになった。そこから、相互承認・協調・互恵の原則が生まれる。
ただし、この体制は米ソの「冷戦」対立によって骨抜きにされていた。それを実質化しようとしたのが、旧西洋植民地から続々と独立したアジア・アフリカの国々だった。AA諸国は1955年に初めての会合を開く(バンドン会議)。そこにやがて、アメリカ合州国の「裏庭」とされた国々が加わり、「アジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国会議」となる。それまで世界秩序形成の主体となったことのなかったこの国々は、米ソいずれの超大国にも与せず「非同盟」の連携でそれぞれの国の独立・協調・発展のために協力する形をとった。後に言われる「第三世界」である。
その数の多さで国連体制のなかで重きを増してくると、ソ連の崩壊を見越した西側主要国は国連の外に「G7」を結成し、冷戦後の世界の「管理・運営」にあたろうとした。「西側」はそうて冷戦後にはその存在意義をなくそうとしたのである。その一方でアメリカは冷戦後も反ソ同盟NATOを解消しようとしなかった。それはEU諸国がロシア・中国と新たな関係を作り出して合州国を海の向こうに孤立させるようなことにならないよう、EUをつなぎとめるためである。だから冷戦後も「北大西洋同盟」は残って「西側」を支えることになった。
○トランプの「ドンロー主義」とは何か?
トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げて登場した。これは他の小国の「自国ファースト」と似ているようでじつはまったく違う。アメリカは「古いヨーロッパを延命させる世界統治などに関わって、持ち出しだけが多く自国の豊かさ強さは蝕まれてしまった。もう世界統治などには関わらない。国際法秩序などは関係ないのだ。アメリカはもともとその外部に出て、束縛を受けない"自由"を獲得したのだから」というモンロー主義回帰宣言なのである。
他の言い方をすれば、もはやイデオロギーで戦争の管理はやらない、強奪が「力の正義」だからだということだ(力で粉砕すれば敵はおとなしくなる。つまり「平和」になる。だからトランプは「ノーベル平和賞」を受ける資格があると思っている)。
「アメリカの衰退」はどこに現れているのか?アメリカ社会内部の脆弱化がその表れだが、何よりも明らかなのは、アメリカが「西側」の面倒を見ているうちに、古いチャイナが強く大きくなってしまったではないか、バイデンたちは「東アジア危機」とかを作って封じ込めようとしてきたけれど、もはや中国には関税もかけられないのが実情だ。つまり中国はもうアメリカが国際法のイデオロギーで抑え込める「敵」ではない。だからもう山賊・海賊同士のディールしかない、というわけだ。
だからアメリカは今や本来の「西半球」に注力する。そして「西半球」が「自由の領域」であることを足場に海賊船を出す、ということだ。ついでに言えば、中東は石油確保(国家としてというよりメジャー企業がそれで儲ける)ができればよいから、統治支配はイスラエルに任せる。何よりイスラエルは、先住民抹殺の上に「自由の国」を作ったアメリカと同じ原理を押し通す国だから。
カナダは51番目の州にするし、グリーンランドは北極圏を抑えるための要所、西半球の一部だ。これはEUが何といおうと(どうせ植民地支配じゃないか)金で「解放する」(ダボス会議でゴタゴタ言う連中をこうして初めから脅しておく)。
ベネズエラの石油は当然アメリカのもの、どんなことをしてでも「取り戻す」。力で脅せばみんなトランプ・アメリカになびかざるをえないだろうと。
○新たな「国際法秩序」の担い手
要するにトランプ・アメリカとは、その国家形成原理に立ち戻り、国際法秩序の「外」に出たアメリカなのである。
それを、「手のひらを返された」と思うEUは「法と秩序」とか「自由貿易」とか今さらのように言う。しかし、合州国の庇護のもとにEU諸国は世界ヘゲモニーを維持しようとしてきたが、植民地支配の遺産を食いつぶしてからは、地球温暖化の問題やデジタルIT化による社会解体などで、じつはもう世界をリードする力を実質的には失っている。にもかかわらず、G7などと称して世界統治のかじ取りを担うと主張してきたのである。
いま世界史規模で起きているのは米・欧が結んだ「西洋」の分裂と崩壊である。
そこで「国際法秩序」を最も必要として、それを尊重し尊重させざるを得ないのは、力で世界を制覇したことのない国々、するべくもない国々、「西洋的秩序」につごうよくとり込まれるか・あるいは締め出されてきた旧「第三世界」の国々である。それだけが今、国連を必要とし、国連を支えようとする(国連総会を軸にして)国々であり、「核抑止力」など持たないがゆえに国際法秩序を正統的に要求しうる勢力である。
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