狼はここにいる!――為政者を免責する稀代の悪法2014/12/10

 今日12月10日、秘密保護法が施行されます。法律の意図からみても、法律としてのできから見ても、最悪かつずさんな法です。

 ずさんな法はふつう、ザル法といって、規制効果がないことが批判されます。ところがこの法律の場合、主旨は、政府が自らの行為を国民から隠し、その隠蔽を怠った者を、意図があろうがなかろうが厳罰に処す、ということです。だから、「ザル法」にしておけば、政府は秘密の範囲をかってに決められるし、罰する対象も思うように広げられる(そのうえ、なぜ逮捕されるのかを明らかにする必要もない)、というとんでもない「利点」をもつことになります。

 この法律は、同盟国から委ねられる軍事機密を洩らさない義務を関係者に課す、ということを名分に作られましたが、それを口実にして実際は、政府のすることを国民に知らせず、その行為がどんな結果を招いても、事情は知らされず闇に葬られ、永久に政府(為政者)が責任をとらずにすむ、というものになっています。

 言いかえれば、「政府はその行為によって引き起こされることについて、国民に対して何ら責任を負う必要がない」ということを保証する法律です。

 こういう法律があれば、アジア太平洋戦争に国を引きずり込み、無条件降伏に至るまで(つまりグーの根も出なくなるまで)続けた責任や、福島第一原発の事故の責任を、政府や東電はいっさい問われることはなくなります。知られたくない事情をリークした者たちの方が罰されるのですから。(沖縄密約をすっぱ抜いた西山記者が厳罰を受けて、政府の「密約」の方は不問に付される、というわけです。これが制度化されます。)

 どんな災厄がもたらされても、誰も悪くない、「一億総ざんげ」でチャラ、ということになります。いわゆる「超国家主義の無責任体制」(丸山真男)というものが、こうして鵺のようによみがえります。

 それが、この法律が稀代の悪法であるという所以です。国内はもちろん、海外からも批判されている、こんな法律を求めた政治家たち、地位や出世のために案文を書いた官僚たち、自民党と公明党の国会議員たち、彼らが今日本をそういう国にしようとしているのです。

 今日から日本は、一部の者たちが「国」の名の下に行う行為を知ろうとすると罰される、寡占「独裁」の国になります。もちろん、こんな法律が実際に適用されたら、ただちに憲法違反を問う大々的な裁判になりますが。そのとき、日本のメディアはどんな反応を示すでしょうか?

 われわれはもう「狼少年」ではありません。「狼」はもうここにいるのです。赤ずきんのおばあさんのベッドの中に――。

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☆特定秘密保護法については、「明日の自由を守る若手弁護士の会」が作った『これでわかった!超訳、特定秘密保護法』(岩波書店)というとてもよくできた解説書があります。ぜひ、読んでみてください。本格的には『秘密保護法、何が問題か』(海渡雄一他編、岩波書店)もあります。

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