「ハマス問題の最終的解決」とイスラエル国家――なぜ、アメリカは支持するのか?―― ― 2023/11/29
10月7日のハマスによる最大規模の越境攻撃以来、イスラエルは「国家の安全」を脅かしたハマス撲滅を掲げてガザ地区を完全封鎖し、生活インフラである電気・水・食料も断って大規模な空爆を開始し、ガザの「人道状況」悪化を訴える支援機関の抗議や国連総会での停戦要請決議などを無視して、2週間後には地上侵攻も始めた。連日の空爆ですでに一万人以上の死者が出ているようだが、家を失った人びとが身を寄せる学校や病院なども、ハマスの地下基地があるということでむしろ攻撃の主要標的にされる。31日には10万人以上が登録するガザ北部のシャバリア難民キャンプが爆撃され、50人以上が死に多数の死傷者が出た。イスラエル軍はこの空爆で7日の攻撃の首謀者を含む多数のハマス軍事部門幹部を殺害したと「戦果」を発表、一般の被災者については「退去を催告済み」と取り合うそぶりもない。
10月末にガザ最大のシファ病院が攻撃されると、通信の遮断にもかかわらずAFPやアルジャジーラの独自回線で、保育器が使えない新生児がシーツの上で弱ってゆく光景も全世界に放映され、すでに15000人と言われる死者のうち6000人以上が子供という状況に、国連のグテーレス事務総長も「ガザは子供たちの墓場になっている」と悲痛な訴えをする。エジプト国境のラファ検問所からようやく支援物資が運び込まれるようになったが(国連が必要だとする量の10分の1)、それを配布する施設に群衆(難民)が押し寄せ、乱取り状態になって閉鎖せざるを得ないという。「秩序崩壊」と言うが、ガザ地区は人間として生きられる場所ではなくなっているのだ(それをイスラエルは「人間獣」と呼ぶ)。もはや限界を超えて助けようにも組織的支援さえできない、まさに飢餓と混乱の地獄である。
イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争」継続をあらためて表明する。ハマスのロケット弾の攻撃で1200人の死者を出し、キブツ襲撃では200人の人質まで奪われた。これは建国以来の危機だとして、この機会にイスラーム組織ハマスの殲滅、「最終戦争」を打ち出している。
○「戦争」ではなく難民居留地の殲滅
だが、これは「戦争」とは言えない。パレスチナ人は国家をもてず、とりわけガザ地区は、イスラエルが違法占領を解く代わりに高く強固な壁で封鎖して管理している、これも違法の(アバルトヘイトと言われる)難民の居住地だ。ハマス(イスラーム抵抗運動)は本来ならこの地の準政府で(2006年のバレスチナ自治政府の評議会選挙でPLOを抑えて勝利したが、西側諸国がこの結果を認めず、やむなくガザ地区だけを管理下においた)、軍事部門はイスラエルに対する抵抗のために組織されており、ハマスをこの地の住民(バレスチナ難民)と厳密に区別することはできない(メディアが死者発表などで「ガザ保健当局」と呼ぶのはハマスの政治部門のことだろう)。だから、イスラエルがハマスを殲滅するというのは、ガザ全体を破壊するということになる。それは国家同士が衝突する「戦争」などではなく、国家なき難民集団の殲滅戦でしかない。
実際イスラエル軍はそう考えているようで、米軍関係者との非公式協議では、市民の犠牲を抑制してという米軍に対して、日本を降伏させるために広島・長崎に原爆を落としたことを引き合いに出してガザ完全破壊を正当化したという。また、イスラエルは200万人の難民をシナイ半島のキャンプに「強制移動」させることも検討と伝えられた。「ガザ・パレスチナ問題の最終的解決」だ。
ガザの地位とその扱いについては国際法上の議論もある。国連の見解も出ている。しかしイスラエルはすべて無視、それをアメリカが支えている。今度の「戦争」もアメリカはイスラエルを背中に隠して(人道的一時停戦とか言いながら――喫煙者も一日何時間かは「禁煙」している)、やれるところまでやらせるだろう。
「パレスチナ問題」の発端はもちろん、アラブ人住民を排除した「ユダヤ人国家イスラエル」の建国にある。これによってアラブ・イスラエルの対立が生れ、今日までの「パレスチナ難民」が作り出された。この状況の大きな転機となったのは、冷戦後の「オスロ合意」(1993年)だ。そこでイスラエル・バレスチナの相互承認と両国家共存のプランが歩み出すが、この和平案を受け入れたイスラエル首相イツハク・ラビンはすぐに同国で暗殺され、プランは頓挫する。そして次の転機はアメリカが始めた「テロとの戦争」だった。
○アメリカはなぜイスラエルを擁護するのか
それにしても、全世界で(西側諸国でも)「ガザを救え」の大規模なデモが繰り広げられる中、アメリカ(合州国)はなぜこれほどまでにイスラエルを擁護し支持し続けるのか?
メディアの解説ではいろいろ取り沙汰される。アメリカのユダヤ人コミュニティーの圧力とか、ナチスから守って作らせた国だからとか…。冷戦下では石油地帯であるアラブ諸国に対する抑えとして、西側の橋頭保でもあった。だが、今回のように、イスラエルの「戦争」が、国際社会の大半の支持を失っても、アメリカはイスラエルの「自衛戦争権」を支持し続けている。それはアメリカの基本外交姿勢だと受け入れる前に、それは何故なのか、と問うてみる必要がある。
ひとつは、イスラエルが遂行するのが「テロとの戦争」だからである。21世紀初頭からアメリカはこれをグローバル・レジームとして打ち出した。敵はもはや国家ではなく「テロリスト」だ、「テロリスト」は人間ではないから秩序の保持者が何としてでも殲滅する。戦争を規制する国際法はもはや通用しない。いや意味がない。相手は国家ではない不法な武装集団だから。他国領だろうがどこだろうが地の果てまでも追い詰めて抹消する(とはいえ国内は爆撃できないから、国内には監視体制を敷く)。「テロリスト」を支援する国も同じだとしてアフガニスタンもイラクも一挙猛爆撃で潰す。それを文明の名において行うのが「テロとの戦争」だった(それが20年かけて最終的に失敗し、アメリカはアフガニスタンから撤退したのだが、「敵」を「テロリスト」と名指す習慣はとどめている。アメリカがテロリスト指定をして、法的保護の外に置き、他の国々がこれに追従している。)
9・11後、ブッシュ大統領がそれを打ち出したとき、真っ先にそれを歓迎したのがイスラエルだった。当時のシャロン首相は、「我々がやってきたのはまさにテロとの戦争なのだ」とインティファーダーの軍事制圧を正当化した。その時以来、ムスリム団体出自のハマスは「テロリスト」として堂々と駆除できるようになり、ハマスの戦闘員を生み出すガザの住民たちは「テロの温床」として壁に閉じ込められ、いつでも爆撃されるようになったのである。だからアメリカは今さらイスラエルのやり方を批判することはできない。
○同型の国家の成立ち
だが、問題の根はもっと深い。イスラエルは「自衛(国家防衛)」の名の下にバレスチナ人の地上からの抹消を目指しているが、じつはイスラエル国家の成立ちはアメリカ合州国とまったく同型なのだ。「テロとの戦争」のひとつの節目としてウサマ・ビンラディンの襲撃殺害があった(2011年)。そのとき米軍が用いた「標的」のコードネームは「ジェロニモ」である。合州国(とアメリカ人)に最後まで抵抗した著名なインディアン(先住民)が「テロリスト」のコード名に使われたのである。それは現代アメリカ人(国家指導者たち)にとって、インディアンが何であったのかを逆に照らし出している。
「アメリカ」は、まずイギリスの宗教的迫害を逃れたピューリタンたちが、大西洋を越えて「自由」に土地を取得できる新大陸に渡り、開拓地に所有権を設定して、土地所有の観念のない先住民を追い出し、しだいに所有地を広げて街を作ることで開かれ始めた。そのためすぐさま先住民との争いが起こるが、馬も銃もなかった「未開」の「インディアン」(そう呼んだのはヨーロッパ人だ)は太刀打ちできない。さらにその「自由」を、移住者が自分たちで独占するためにイギリスから独立して合州国ができた。そして百年足らずで大陸を横断する一大国家になったが、それと同時に先住民はほとんど消滅したのである。「好戦的」だとされたアパッチ族を率いて最後まで抵抗したのがジェロニモだった。合州国には黒人奴隷の問題もあったが(それは南北戦争で一応解消されたことになる)、それ以前にこの国が「自由」の国であるのは、先住民をほぼ抹消したからである(だから大地はフリーになった)。そしてその大地と自然をすべて資産化したから、合州国は一九世紀末には、そしてとりわけヨーロッパが大戦で没落した後には世界一富裕でかつ強大な国になったのである。
イスラエルは、旧約聖書を根拠にパレスチナに国を作ろうとして入植したユダヤ人たち(シオニスト)が、二度の欧州大戦のドサクサの中で、そこに住んでいたアラブ人を排除し追放してユダヤ人国家を作った。それに反発したアラブ諸国との間で戦争になるが、米欧の強力な支援があって、第四次戦争後は現在のような国家になった。ただ、イスラエル建国で追放された人びと(先住民!)は、住む土地を失い国ももたない難民となり、うしなった土地の名でパレスチナ人と呼ばれ、その末裔の一部がいまガザという「保留地」の住人になっている。
付け加えるなら、初期ピューリタンたちにとって、大西洋横断は「出エジプト(エグゾダス)」に例えられ、移民たちは新天地に「新しいイスラエル」を作る、世界から仰ぎ見られる「丘の上の町を築く」という希望を糧に苦難に耐えたのである(以上の発言をしたのは、マサチューセッツ植民地初代総督J・ウィンスロップだが、こうした「建国神話」はまともなアメリカ史を見れば重要事跡として書かれている)。
○米欧の独善を受け入れない世界
だからアメリカはイスラエルを否定できない。イスラエルを否認することは自らの存立の根拠を否認することになるからだ。パレスチナ人とは新国家建設のために土地を奪われた現代の「インディアン」なのであり、その亡霊にアメリカは「テロリスト」という名をつけて、「恐怖との戦争」を正当化しているのである。アメリカがかつて建国のためにしたことを、20世紀半ばにイスラエルが再現している。だからアメリカは「新しいインディアン」をイスラエルが撲滅することを止めることができない。ヒロシマ・ナガサキに原爆を落とし、その後も抑止力をかざして世界に君臨しようとするアメリカは、この「先住民(土俗民)」の殲滅を認めざるを得ないのである。
だが今、かつてヨーロッパ諸国の植民地支配を受け、独立してからもその軛を負わされた国々が、米欧の独善を受け入れなくなりつつある。とりわけ中国、インド、トルコ等はアメリカにとって脅威になりつつある。ラテン・アメリカでもブラジルが自立しつつあり、キューバに対する70年に渡るアメリカの経済制裁の解除を要請する国連決議も圧倒的多数で成立している。そして「先住民」の復権をもっとも先進的に打ち出しているボリビアは、ガザ空爆に抗議してイスラエルと断交を表明した(南アフリカも)。
いま、世界はようやく「アメリカの時代」が終わったことを告げようとしているのだが、もちろんアメリカはそれを受け入れない。それが現代の混乱の由来である。
*重要なこととしてヨーロッパの「反ユダヤ主義」の中東への「輸出」についてはこではふれられなかったが、それについては当ブログの10月13日の記事「再びの(しかし最大の)ガザ緊迫に何を思うか?」を参照されたい。
10月末にガザ最大のシファ病院が攻撃されると、通信の遮断にもかかわらずAFPやアルジャジーラの独自回線で、保育器が使えない新生児がシーツの上で弱ってゆく光景も全世界に放映され、すでに15000人と言われる死者のうち6000人以上が子供という状況に、国連のグテーレス事務総長も「ガザは子供たちの墓場になっている」と悲痛な訴えをする。エジプト国境のラファ検問所からようやく支援物資が運び込まれるようになったが(国連が必要だとする量の10分の1)、それを配布する施設に群衆(難民)が押し寄せ、乱取り状態になって閉鎖せざるを得ないという。「秩序崩壊」と言うが、ガザ地区は人間として生きられる場所ではなくなっているのだ(それをイスラエルは「人間獣」と呼ぶ)。もはや限界を超えて助けようにも組織的支援さえできない、まさに飢餓と混乱の地獄である。
イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争」継続をあらためて表明する。ハマスのロケット弾の攻撃で1200人の死者を出し、キブツ襲撃では200人の人質まで奪われた。これは建国以来の危機だとして、この機会にイスラーム組織ハマスの殲滅、「最終戦争」を打ち出している。
○「戦争」ではなく難民居留地の殲滅
だが、これは「戦争」とは言えない。パレスチナ人は国家をもてず、とりわけガザ地区は、イスラエルが違法占領を解く代わりに高く強固な壁で封鎖して管理している、これも違法の(アバルトヘイトと言われる)難民の居住地だ。ハマス(イスラーム抵抗運動)は本来ならこの地の準政府で(2006年のバレスチナ自治政府の評議会選挙でPLOを抑えて勝利したが、西側諸国がこの結果を認めず、やむなくガザ地区だけを管理下においた)、軍事部門はイスラエルに対する抵抗のために組織されており、ハマスをこの地の住民(バレスチナ難民)と厳密に区別することはできない(メディアが死者発表などで「ガザ保健当局」と呼ぶのはハマスの政治部門のことだろう)。だから、イスラエルがハマスを殲滅するというのは、ガザ全体を破壊するということになる。それは国家同士が衝突する「戦争」などではなく、国家なき難民集団の殲滅戦でしかない。
実際イスラエル軍はそう考えているようで、米軍関係者との非公式協議では、市民の犠牲を抑制してという米軍に対して、日本を降伏させるために広島・長崎に原爆を落としたことを引き合いに出してガザ完全破壊を正当化したという。また、イスラエルは200万人の難民をシナイ半島のキャンプに「強制移動」させることも検討と伝えられた。「ガザ・パレスチナ問題の最終的解決」だ。
ガザの地位とその扱いについては国際法上の議論もある。国連の見解も出ている。しかしイスラエルはすべて無視、それをアメリカが支えている。今度の「戦争」もアメリカはイスラエルを背中に隠して(人道的一時停戦とか言いながら――喫煙者も一日何時間かは「禁煙」している)、やれるところまでやらせるだろう。
「パレスチナ問題」の発端はもちろん、アラブ人住民を排除した「ユダヤ人国家イスラエル」の建国にある。これによってアラブ・イスラエルの対立が生れ、今日までの「パレスチナ難民」が作り出された。この状況の大きな転機となったのは、冷戦後の「オスロ合意」(1993年)だ。そこでイスラエル・バレスチナの相互承認と両国家共存のプランが歩み出すが、この和平案を受け入れたイスラエル首相イツハク・ラビンはすぐに同国で暗殺され、プランは頓挫する。そして次の転機はアメリカが始めた「テロとの戦争」だった。
○アメリカはなぜイスラエルを擁護するのか
それにしても、全世界で(西側諸国でも)「ガザを救え」の大規模なデモが繰り広げられる中、アメリカ(合州国)はなぜこれほどまでにイスラエルを擁護し支持し続けるのか?
メディアの解説ではいろいろ取り沙汰される。アメリカのユダヤ人コミュニティーの圧力とか、ナチスから守って作らせた国だからとか…。冷戦下では石油地帯であるアラブ諸国に対する抑えとして、西側の橋頭保でもあった。だが、今回のように、イスラエルの「戦争」が、国際社会の大半の支持を失っても、アメリカはイスラエルの「自衛戦争権」を支持し続けている。それはアメリカの基本外交姿勢だと受け入れる前に、それは何故なのか、と問うてみる必要がある。
ひとつは、イスラエルが遂行するのが「テロとの戦争」だからである。21世紀初頭からアメリカはこれをグローバル・レジームとして打ち出した。敵はもはや国家ではなく「テロリスト」だ、「テロリスト」は人間ではないから秩序の保持者が何としてでも殲滅する。戦争を規制する国際法はもはや通用しない。いや意味がない。相手は国家ではない不法な武装集団だから。他国領だろうがどこだろうが地の果てまでも追い詰めて抹消する(とはいえ国内は爆撃できないから、国内には監視体制を敷く)。「テロリスト」を支援する国も同じだとしてアフガニスタンもイラクも一挙猛爆撃で潰す。それを文明の名において行うのが「テロとの戦争」だった(それが20年かけて最終的に失敗し、アメリカはアフガニスタンから撤退したのだが、「敵」を「テロリスト」と名指す習慣はとどめている。アメリカがテロリスト指定をして、法的保護の外に置き、他の国々がこれに追従している。)
9・11後、ブッシュ大統領がそれを打ち出したとき、真っ先にそれを歓迎したのがイスラエルだった。当時のシャロン首相は、「我々がやってきたのはまさにテロとの戦争なのだ」とインティファーダーの軍事制圧を正当化した。その時以来、ムスリム団体出自のハマスは「テロリスト」として堂々と駆除できるようになり、ハマスの戦闘員を生み出すガザの住民たちは「テロの温床」として壁に閉じ込められ、いつでも爆撃されるようになったのである。だからアメリカは今さらイスラエルのやり方を批判することはできない。
○同型の国家の成立ち
だが、問題の根はもっと深い。イスラエルは「自衛(国家防衛)」の名の下にバレスチナ人の地上からの抹消を目指しているが、じつはイスラエル国家の成立ちはアメリカ合州国とまったく同型なのだ。「テロとの戦争」のひとつの節目としてウサマ・ビンラディンの襲撃殺害があった(2011年)。そのとき米軍が用いた「標的」のコードネームは「ジェロニモ」である。合州国(とアメリカ人)に最後まで抵抗した著名なインディアン(先住民)が「テロリスト」のコード名に使われたのである。それは現代アメリカ人(国家指導者たち)にとって、インディアンが何であったのかを逆に照らし出している。
「アメリカ」は、まずイギリスの宗教的迫害を逃れたピューリタンたちが、大西洋を越えて「自由」に土地を取得できる新大陸に渡り、開拓地に所有権を設定して、土地所有の観念のない先住民を追い出し、しだいに所有地を広げて街を作ることで開かれ始めた。そのためすぐさま先住民との争いが起こるが、馬も銃もなかった「未開」の「インディアン」(そう呼んだのはヨーロッパ人だ)は太刀打ちできない。さらにその「自由」を、移住者が自分たちで独占するためにイギリスから独立して合州国ができた。そして百年足らずで大陸を横断する一大国家になったが、それと同時に先住民はほとんど消滅したのである。「好戦的」だとされたアパッチ族を率いて最後まで抵抗したのがジェロニモだった。合州国には黒人奴隷の問題もあったが(それは南北戦争で一応解消されたことになる)、それ以前にこの国が「自由」の国であるのは、先住民をほぼ抹消したからである(だから大地はフリーになった)。そしてその大地と自然をすべて資産化したから、合州国は一九世紀末には、そしてとりわけヨーロッパが大戦で没落した後には世界一富裕でかつ強大な国になったのである。
イスラエルは、旧約聖書を根拠にパレスチナに国を作ろうとして入植したユダヤ人たち(シオニスト)が、二度の欧州大戦のドサクサの中で、そこに住んでいたアラブ人を排除し追放してユダヤ人国家を作った。それに反発したアラブ諸国との間で戦争になるが、米欧の強力な支援があって、第四次戦争後は現在のような国家になった。ただ、イスラエル建国で追放された人びと(先住民!)は、住む土地を失い国ももたない難民となり、うしなった土地の名でパレスチナ人と呼ばれ、その末裔の一部がいまガザという「保留地」の住人になっている。
付け加えるなら、初期ピューリタンたちにとって、大西洋横断は「出エジプト(エグゾダス)」に例えられ、移民たちは新天地に「新しいイスラエル」を作る、世界から仰ぎ見られる「丘の上の町を築く」という希望を糧に苦難に耐えたのである(以上の発言をしたのは、マサチューセッツ植民地初代総督J・ウィンスロップだが、こうした「建国神話」はまともなアメリカ史を見れば重要事跡として書かれている)。
○米欧の独善を受け入れない世界
だからアメリカはイスラエルを否定できない。イスラエルを否認することは自らの存立の根拠を否認することになるからだ。パレスチナ人とは新国家建設のために土地を奪われた現代の「インディアン」なのであり、その亡霊にアメリカは「テロリスト」という名をつけて、「恐怖との戦争」を正当化しているのである。アメリカがかつて建国のためにしたことを、20世紀半ばにイスラエルが再現している。だからアメリカは「新しいインディアン」をイスラエルが撲滅することを止めることができない。ヒロシマ・ナガサキに原爆を落とし、その後も抑止力をかざして世界に君臨しようとするアメリカは、この「先住民(土俗民)」の殲滅を認めざるを得ないのである。
だが今、かつてヨーロッパ諸国の植民地支配を受け、独立してからもその軛を負わされた国々が、米欧の独善を受け入れなくなりつつある。とりわけ中国、インド、トルコ等はアメリカにとって脅威になりつつある。ラテン・アメリカでもブラジルが自立しつつあり、キューバに対する70年に渡るアメリカの経済制裁の解除を要請する国連決議も圧倒的多数で成立している。そして「先住民」の復権をもっとも先進的に打ち出しているボリビアは、ガザ空爆に抗議してイスラエルと断交を表明した(南アフリカも)。
いま、世界はようやく「アメリカの時代」が終わったことを告げようとしているのだが、もちろんアメリカはそれを受け入れない。それが現代の混乱の由来である。
*重要なこととしてヨーロッパの「反ユダヤ主義」の中東への「輸出」についてはこではふれられなかったが、それについては当ブログの10月13日の記事「再びの(しかし最大の)ガザ緊迫に何を思うか?」を参照されたい。
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