「すばらしくてふるえる」SEALDs本2015/10/17

 先日、高橋源一郎×SEALDsの『民主主義ってなんだ?』が出た。だいぶ注目されたようだが、こんどはSEALDsによるシールズ本『SEALDs 民主主義ってこれだ!』が出た。これが真打、以前からグループが準備しているときいていた本だ。コンセプトからコンテンツ、編集、撮影、ブックデザイン、みんなSEALDsの仲間が作ったはず。

 これがすばらしく、かつおそるべき本になっている。戦慄!
 手にとる本のカバーは、夜の国会前のデモとコールの、少し劇画調(?)に焼き込んだ写真。そこに「SEALDs」「This is democracy looks like. 民主主義ってこれだ!」の白抜き文字。帯は白に一行赤く、あとはふつうの黒い文字。カバーをはずすと、下には表が白、背がピンクと、文字と色を入れ違えた、まったく明るいすっきりした冊子の表紙。
 そしてイントロダクションの、浸み込んでゆくような碧空の下、緑の土手を背景に、砂のプールの縁に立ち遊ぶ二人の若者のかげ、シールズ調満開の写真だ。

 戦慄!

 そう思うのはわたしが浅はかだからかもしれない。じっさいわたしも、夏の初めにメールの依頼を受けてこの本に一文を寄せた。それはイントロ口絵の写真を思いっきり真に受けたような「SEALDs讃江」といった文章だ。そのときは圧倒的にポジティヴな短文を書こうと思った。

 それも含めてわたしは浅はかだと認める。その浅はかさは、SEALDsの若者たちの、これで(これが)いいじゃん、という力まかせのノリに一見呼応している。だが、この明るさは、たぶん3・11で炙りだされた日本社会(だけではない)の泥溜まりのようなタールの夜を潜って出てきたものだ。かれらの真っすぐに突き出される声とことばの背後には、その楽し気な笑いの背の向こうには、どうしようもなく息苦しい泥溜まりの闇がある。それが表紙カバーの写真の周囲にも焼き込まれている。

 スポットライトを浴び、フラッシュを浴びて、こいつらここまでやるかと思わせるほど満身のコールを続けたあと、それでも戻ってきたタールの夜の底で、人気のない街路のゴミを拾い集める、その身振りの内に沈む名状しがたい感情がある。たしかに、この本のカラフルな中身は、二枚の真っ黒な内表紙に包まれているのだ(そこに、黒に白抜きの匿名のエッセイ)。

 纏いつく汚泥の闇のなかから身を起こしているのに、かれらはまるで真水のプールから出てきたように、プーッと息を吐いて顔を出す。水面を破って出るその思い切り、その「覚悟」の一瞬が戦慄させる。

 このコンパクトでファッショナブルな「本」(拡散する共同の工房から生まれた重層的なイメージと言葉の収蔵体――たぶんこれには本とは別の名前が必要だろう)にはそんな経験のすべてが凝縮されている。「本」のあり方も変える戦慄すべき本だ。

*SEALDs『民主主義ってこれだ!』(大月書店、10月20日発売)。どこから出ていようと関係ない。かたちもコンテンツも含め、こういう本を作れるのがSEALDsだ。