18年目の9・11、トランプ、ボルトンを解任2019/09/12

 気がついたら9月11日。日本では、東京の隣の千葉県が台風による大災害(北海道地震のような電気・水道・通信の都市インフラ破綻による被害)に見舞われ復旧が進まないが、安倍政権は今後に向けての「大組閣」に忙しく、赤坂自民亭以上に熱が入って災害など目に入らない。メディアはすっかりその姿勢に乗って、おぞましい小役人たちの当落予想から決定までを、芸能ニュースよろしく一大事であるかのように伝え、テレビなど残りの時間は相変わらず「韓国叩き」に費やして、その背後に文字どおり電気のつかない千葉の夜を押し隠し、花火を挙げて「アベ祭り」を演出している。これが「レイワ初年の日本の秋」だ。

 韓国の物議を醸す法相就任をさんざん取り上げたなら、日本の暴言暴行パワハラ議員の法相任命はどうなのかと、問いもしない日本のメディア。言い出したらきりがないのが安倍内閣だが、そのアベ日本が日韓関係でも何でも頼るトランプのアメリカでは、たった一人の政府要人の「更迭」が話題になっている。安全保障担当の大統領補佐官ジョン・ボルトンを、昨日の夜トランプがツイッターで「お役御免」を言い渡したのだ(ボルトンは辞表を出したと言っているが)。トランプが進めたがっていたアフガニスタンのタリバンとの直接交渉が、5日カブールで起きた自動車爆破事件(BBCは「テロ」とは言わないhttps://www.bbc.com/japanese/49630856)で米兵1人が死亡し、8日にキャンプデービットで予定されていたタリバン指導者とアフガニスタンのガニ大統領との秘密会合を中止したその直後ということだ。

 9・11から18年、いまも続くアメリカ史上最長の戦争(2300人の米兵が死に――「非対称的戦争」だから相手の死者は数にならない――、今も15000人が派兵されている)をトランプは止めたがったが、ボルトンが最後に邪魔した(自動車爆破を工作した)というのが引き金になったのだろう。ボルトンは先ごろの「イラン危機」でも、日本のアべ首相がのこのこイランの大統領に会いに行ったときに、イランの反政府派エージェントを使って日本のタンカーを偽装攻撃させたことも疑われている。その後、アメリカの無人機が撃墜されたことを受けて、アメリカが報復攻撃に出るその10分前に、結果を予測したトランプが中止命令を出してことなきをえた。

 そもそもボルトンがホワイト・ハウスに入ったのは、トランプが選んだ右派・強硬派(力の信奉者)でさえ、従来の国家戦略を無視してやりたいようにやるトランプについて行けなくて、みんな辞めてしまったからである。だから、イラク戦争も自慢し、何でも戦争にして叩くということしか頭にない鼻つまみ者のボルトンが、入り込むことができた。それも安全保障つまり戦争担当だ。だが彼は、アメリカに逆らうのは「敵」、つまり「反米」、「反米」はとにかく軍事力で潰せばよい、そうしてこそアメリカだと考えている。とくにイランは積年の敵で、この機会にともかく叩きたい。ロシアとの核軍縮協定は破棄した。アメリカの軍事力に制約は受けない。南米の「反米」ベネズエラも、潰そうとしている南米マフィアを後押しして軍事介入を探り、マドゥーロ政権を倒そうとする。そしてトランプがやりたがっている北朝鮮取引は何としてでも阻止する(先日の板門店会見にポンヘオはいたがボルトンは姿を見せなかった)。陰謀論風でトランプに切られたスティーヴ・バノンのあとで、ボルトンはもっとドライに(とても正気とは思えないが)強硬策をホワイト・ハウスに仕込んできた。その点は国防相を辞めたマチスの方が現実的だったし、ポンペオももう少し現実的な判断ができるようだし、どうやらトランプの決定にしたがっている。ところがボルトンはリアルはおかまいなし、作ればいいという筋金入りだ。その路線にトランプも引きこもうとする。だからボルトンがホワイト・ハウスに入った頃から、トランプ外交で混乱し始めた世界には、一気に火薬のにおいが立ち始めた。

 ベネズエラ情勢は今は停滞しているようだが、そこへの軍事介入(人道的介入という名の)がギリギリで踏みとどまったのは、対イランの緊張も抱えて、トランプだけでなく軍も、二つの戦場は構えたくなかったからだろう(シリアからの撤退は何とか進めても、まだアフガンは残っていたし…)。中国との経済「戦争」もある。これ以上面倒を抱えたくない(トランプは脅すのは好きだが、自分で戦争をする、それもあちこちでやるのはきっと嫌なのだ)。それでボルトンを切ったということだ。

 ということは、タリバンとの交渉は頓挫させられたが、その代わり、まさにその代わりイランとの直接交渉の余地が出るかもしれない。時間はかかるだろうが、北朝鮮との交渉も、ホワイト・ハウス内から足を引っ張られることはなくなるだろう。ベネズエラはと言えば、南米マフィアに加えて名うての悪党(エイブラハムズ)を国務省の担当にしてしまったから、ここはまだくすぶるだろう。日本の対韓国関係では、これだけ日本がトランプに貢いでいるので、しばらくは日本の肩を持ち続けてくれるだろうが、北朝鮮対応が絡んでくると、どうなるかわからない。

 産経新聞がボルトンの離任を「惜しんで」いる。産経はネオコン路線が好きなのだ。みずからが従属一体化するアメリカがネオコン的に振舞うのが。安倍政権の対韓国姿勢は、その親分のやり方(対中国)を真似したものにすぎない。

★この件、いろいろ考えることがあるが、とりあえず大雑把な印象を。

★[参考] ハンギョレ新聞9/11日より――(…)ボルトン補佐官はこれまで、アフガニスタンやベネズエラ、イラン、北朝鮮などの問題でトランプ大統領と見解の違いを見せてきた。トランプ大統領のアフガニスタン撤退方針に反対してきた彼は、最近、撤退問題を話し合うための会議から排除されたが、遅れて合流した。トランプ大統領は今年春、ベネズエラのマドゥロ政権を追い出すための米国の圧迫作戦が失敗してから、ボルトン補佐官に失望したという。イランに対してもボルトン補佐官は軍事攻撃を主張し、トランプ大統領と意見の食い違いを見せた。北朝鮮の核廃棄方式に関しても、ボルトン補佐官は昨年「リビアモデル」を取り上げて北朝鮮を刺激し、トランプ大統領が「リビアモデルはわれわれの追求するものではない」と収拾した。最近、北朝鮮の短距離ミサイルの試験発射をめぐり、トランプ大統領は「長距離ではない短距離は問題にならない」と述べたのに対し、ボルトン補佐官は「国連の対北朝鮮制裁決議に反する」と攻撃的な立場を示した。(…)