ちくま文庫版『夜の鼓動にふれる』刊行2015/08/04

 『夜の鼓動にふれる――戦争論講義』が20年ぶりにちくま文庫で再刊されます(発売は8月7日頃)。東大出版会から最初に出たのが1995年、ちょうど「戦後50年」にあたる年で、今年は「戦後70年」。計ったわけではありませんが、なにやら因縁を感じないでもありません。

 ちょうど、冷戦が終わり、世界が核戦争の脅威から解放されてある種の「幸福感」が漂った頃に、その機運にしたたか冷や水を浴びせるようにして「湾岸戦争」が起こりました。今日の「テロとの戦争」へと続く流れの発端です。

 その時期に、あたりまえのように〈文明〉の頂点とみなされた20世紀の世界を根柢から規定していた〈世界戦争〉とは何だったのか、世界を二分した冷戦が終わっても人類は〈戦争〉から解放されないのか、人間にとって〈戦争〉とは何なのか、そしてそれと不可分の〈文明〉とは? そんな問いを抱えて〈戦争〉から人間とその世界、その歴史(近代)を考えるというモチーフで書いたのがこの本でした。

 〈戦争〉を避けるべきもの、あるいは〈悪〉と考えるのではなく、集合的に生きる人間と切り離せないものだったと考えたとき、とりわけ近代の世界にとってそれは何だったのか、人間はそれをどう捉えどう経験したのか、といった観点から、言い換えれば「明るみ」の〈昼〉の観点からではなく、紅蓮の炎がますます深くする〈夜〉の観点から、歴史的な人間の生存の在りようを考える、という試みでした。

 それは、政治的・社会的にわれわれの生きる日本が〈戦争〉との関係を善くも悪しくも編み直そうとしている今日、もう一度掘り下げてみるべき課題でもあると思っています。また、それはわれわれ一人ひとりと〈戦争〉との関係を、ゆるぎない観点から考えるためにも必要なことでしょう。

 だからわたしとしては、この本がいまこの時期に再刊されることをひそかによしとしています。とりわけ、国会前で毎週金曜日の「夜」に若者たちの「熱い鼓動」が脈打ち響き渡るこの時期に、もう一度命を取り戻すチャンスに恵まれたことをうれしく思っています。まったく手前勝手な思い込みですが、わたしの主観の内でだけでも、この本をSEALDsの若者たちに捧げたいと考えています。

 20年後の文庫化にあたって、この間の〈戦争〉に関する決定的な変化を招来させた「テロとの戦争」に関する「補講」を巻末に添付しました。

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